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25歳の伊達公子から早21年……。
あの時と今回、2つの引退の違いは?
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byAFP/AFLO
posted2017/09/26 08:00
引退セレモニーでの伊達。その笑顔は、昔とまったく変わらない輝きを持っているように見えるが……。
キャリア通して1ゲームも取れなかった試合は皆無!?
最後の舞台は、東レよりも規模の小さいジャパンウイメンズオープンだった。
3年前まで大阪で行なわれていたこの大会もまた、2010年に40歳の伊達が決勝に進出して沸かせた大会だ。
全米オープンを現地で最後まで堪能してからでは、引退会見はおろかこの引退試合にも間に合わなかったのだが、スコアを見て目を疑った。
0-6、0-6……。
伊達はファーストキャリアも通して、1ゲームも取れなかった試合は一度もない。これは〈伊達公子〉の負け方ではない。
しかしすぐに、こんなに伊達公子らしい最後があるだろうかと思い直した。
これまで思いがけないものを何度も見せてくれた伊達だから、ひょっとしたら何かが起こるかもしれないという期待を抱いていたのだが、そうきたか、と……。
最後の最後まで……「1ゲームを取りたい!」。
0-6、0-5のチェンジエンドでオンコート・コーチングをリクエストし、この大会で伊達の最後のコーチを務めた石井弥起に「1ゲーム取りたい」と訴えたことも、語りぐさになるだろう。
テレビの解説をしていた後輩の浅越しのぶは、放送ブースでこれを聞いて泣き、その後は解説にならなかったと直後のセレモニーで語っていた。
「まだ取りたいの! と思って……」
関西人らしくオチをつけた泣き笑いにはリスペクトと愛情が詰まっていたが、もし最後の懇願を実現させて1ゲームをもぎ取ったとしたら、それもまた「伊達らしい」と私たちは思うのではないだろうか。あるいは、ファイナルセット・タイブレークの大接戦の末に敗れたとしても。
試合を終えてセレモニーの段になったら、空に虹がかかったとか……フィクションでもなかなか思いつかない演出だ。
しかしこれまた、最後までしとしと雨が降っていたとしても、マイクを持った途端にゲリラ豪雨が襲ってきたとしても、それはそれでストーリーになるだろう。結局、伊達がそこにいれば、何が起ころうが、何も起こらなかろうが、どんなドラマにでもなるのだ。
引き際のタイミングだって同じことかもしれない。伊達が自分の心に正直に行動を起こすなら、いつであれ、そのタイミングでしかありえない見事な引き際になったに違いない。