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サッカー界の英雄が麻薬絡みで破産!?
殺人件数2位メキシコ、その闇の深さ。
text by
トマス・グバンThomas Goubin
photograph byPatrick Boutroux/L'Equipe
posted2017/09/04 08:00
世界で2番目に殺人事件の多い国のサッカー場。リーガメックスのクラブには、スタジアム内だけでなく、その外の世界でも警察が目を光らせている。
犯罪者と同じ土地、同じ境遇から出てくる選手たち。
リーガメックスの選手たちは、多くが犯罪組織のボスたちと同じ貧民街の出身であり、プロとして成功した後には彼らと同様にけばけばしく派手なスポットに通いはじめる。
2010年1月には、元パラグアイ代表のサルバドール・カバニャスが、メキシコ市のディスコで酔っ払いと口論の末に頭に銃弾を撃ち込まれるという事件が起きている。因縁をつけたのは有名な麻薬密売組織の元締めであり、当時リーガメックス最高の選手との評価が高かったカバニャスは、命こそ助かったものの選手生命は奪われてしまったのだった。
メキシコは世界でシリアに次いで殺人事件の件数が多い国である。
かの地では、麻薬組織の元締めは恐怖を掻き立てると同時に魅力的な存在にもなっている。そしてサッカー選手と元締めにも共通の魅力がある。
マルケス以前の伝説的なサッカー選手たちも、彼らとの関わりを持っていた。
例えば、この5月に“チチャリート”(ハビエル・エルナンデス)に代表通算得点記録を抜かれるまで、メキシコサッカー史上最高のストライカーといわれたハレド・ボルヘッティは、2013年10月に暗殺された「ティファナカルテル」の首領ラファエル・アレジャーノ・フェリックスの誕生パーティーに出席していた。
ボルヘッティはこのカルテルが強力な支配力を持つメキシコ北部クリアカンの生まれだった。そのような場所で生まれ育ってしまったら、こういう危険な関係を避けるのがそもそも難しい。
「できるだけ距離を置いて関わらないようにするにせよ、完全に関係を絶つことは不可能だ」と、ある元選手は告白している。
誘拐を専門とする犯罪集団の手助けをしていた選手。
クラブ「ラヤドス・モンテレー」のゴールキーパー、オマール・オルティスにはそうした賢明さが欠けていた。
2012年1月、当時35歳だった彼はドーピングで出場停止処分を受けた。その後逮捕されたのは、誘拐を専門とする犯罪カルテル「デルゴルフォ」との関係が明らかになったからだった。捜査当局によれば、オルティスは組織が目をつけた裕福な誘拐対象の情報を提供するために仲間に入ったとのことである。
また、クラブ「ショロス・ティファナ」のBチームに所属していたダニエル・アンドレス・ゴメス・フローレスも、23kgもの「メタムフェタミン(中枢神経刺激剤)」をアメリカに運ぼうとしてこの4月に国境付近で逮捕されたのだった。