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いわきFCに続く筑波大の野心って?
天皇杯躍進とともにスポーツ革新を。
text by
手嶋真彦Masahiko Tejima
photograph byKyodo News
posted2017/07/27 17:30
Jリーグ勢をなぎ倒しているサッカー部。彼らの躍進は筑波大の今を象徴するのもかもしれない。
大学のスポーツ環境を充実させるための原資を稼ぐ。
とはいえ、大学スポーツ産業化のために、安田が筑波大学に乗り込むと考えるのは早合点であり、思い違いだ。大学とは本来、人材育成機関だろう。スポーツ活動を通した豊かな人格形成にこそ、スポーツの真価がある。それが、自身の大学時代にアメリカンフットボール部で多くを学び、指導者としても学生たちと短くない時間を共有してきた安田ならではの、経験に由来する強い確信なのだ。
自己の限界に挑むスポーツでの鍛錬を通して見込める成長は、単に身体的な強化だけではない。自発性、責任感、リーダーシップ、コミュニケーション能力の向上など心身両面で枚挙にいとまがなく、勝負や競技から得られる他者へのリスペクトはダイバーシティ(多様性)の尊重へも繋がってくる。人格陶冶に直結する価値を持ったスポーツは、教育現場に不可欠であり、そのために大学スポーツの産業化を進めていくという順序が安田の認識だ。大学のスポーツ環境を充実させるための原資を、大学スポーツ自体で稼ぎ出せれば、それこそ理想的だと。
将来的に独自のカンファレンス(リーグ)を構成し、集客できる自前のスタジアム/アリーナを所有して、ホーム&アウェーで稼げる時代が来ようとも、収益はスポーツを含めた教育環境の整備、改善のために使う。アカデミックな学問、研究領域も再投資の対象だ。
大学スポーツ改革の取り組みから様々な分野に。
筑波大学が鋭いクサビとなるであろう大学スポーツ改革の取り組みは、日本版NCAAをめぐる空転しがちな議論にも風穴を開けるに違いない。大学スポーツの産業化は、大学の教育環境を充実させるための手段であって、目的ではないというのが安田の考えだ。大学横断的、競技横断的な統括組織(日本版NCAA)を仮に作ったところで、目的と手段を履き違えるか、そもそも教育環境改善の意志に乏しい加盟大学が多いままなら、空疎な箱物のような組織にもなりかねない。
あえて言えば、教育環境の充実すら目的ではない。安田との対話を通して、浮かび上がってくるのは、こんな未来だ。世界各国から個性的な才能がどんどん集まってくる筑波大学。学生はもちろん、教職員を含めてだ。そして全世界の最適化――幸せの最大化と不幸せの最小化――に貢献できるリーダーや担い手を、国籍を問わずに輩出できる筑波大学。そうした成功モデルをドームとの協働で作り上げ、第2、第3の筑波大学が後に続く。グローバルスタンダードで最高水準の日本の大学が増えていき、切磋琢磨する。
今すぐにという話ではない。しかし、そんな胸躍る未来が訪れたなら、2017年7月27日の発表は画期的なその第一歩として歴史に刻まれているはずだ。(文中敬称略)