フランス・フットボール通信BACK NUMBER
プレミア屈指の名審判がサウジへ。
高年収の代わりに失ったW杯決勝の笛。
text by
パトリック・ソウデンPatrick Sowden
photograph byPierre Lahalle
posted2017/07/26 11:00
プレミアリーグ最高の審判として評価がある一方、ピッチ上での彼の振る舞いを非難する人もいる……。
協会への不信感が募る一方、派手な生活は批判された。
めったにインタビューを受けない彼が、この記事の数カ月前におこなわれた数少ないインタビューの中でそのことを語っている。
「人生で最も辛い時期だった。消化するには多くの時間がかかった。というのも自分が本当に以前の状態に戻りたいのか確信が持てなかったからで、レフリーへの情熱を失ってしまった」
彼自身の審判協会への不信感は拭い去られることはなく、その能力の高さを認められながらも、彼の物欲の強さや奔放な行動への世間からの嫌悪感も隠されなかった。
“クラッツ”という自らのニックネームにちなんだ「C19TTS(クラッツと発音する)」と表記されたナンバープレートをつけた高級車を乗り回し、ファッションコード違反を犯してエド・シーランのコンサートに出かけたり、さらにはチャンピオンズリーグやEURO2016のロゴのタトゥーを両腕に刻印するなど……批判のネタは尽きない。
「私の行動が傲慢だと見なしている人たちが」
他方でクラッテンバーグの側にも、2012年にチェルシーとオビ・ミケルにまつわる人種差別発言が問題になったときに、審判協会から守られなかったという思いがあった。
彼を擁護したのは地元イングランドの協会ではなく、当時UEFA審判委員長のピエルルイジ・コリーナであった。マーチン・アトキンソンを推していたイングランドの審判協会に彼が圧力をかけて、クラッテンバーグのEURO2016への参加を実現させたのだった。
クラッテンバーグはいう。
「私の行動が傲慢だと見なしている人たちがいるのは知っている。しかしピッチの上では、日常生活と同じように選手と接することはできない。私はプロフェッショナルであり、自分のパーソナリティをピッチ上で見せるのは、選手がそれを望んでいるからだ。彼らは規則を機械的に押し付けるロボットを求めてはいない。試合はスペクタクルであり、レフリーはたとえその役割の範疇を越えても、重要な役割を担いうる存在だ」