フランス・フットボール通信BACK NUMBER
プレミア屈指の名審判がサウジへ。
高年収の代わりに失ったW杯決勝の笛。
posted2017/07/26 11:00
text by
パトリック・ソウデンPatrick Sowden
photograph by
Pierre Lahalle
『フランス・フットボール』誌では、6月20日発売号からEURO2016の1年後の特集として「EURO2016のヒーローのその後の人生」という4号連続企画を掲載している。
ヒーローといいながらその人選はシブく、第1回がアイスランド戦を実況し続けた同国の(元選手にして)アナウンサーであるグドムンドル・ベネディクトソン、第2回がベルギー人のコメディアンで大会中はマスコットの着ぐるみに身を包んでいたミシェル・フレナ、第3回はロシア人フーリガンとのマルセイユでの騒動に巻き込まれたふたりのイングランド人、アンドリュー・バッシュとスチュワート・グレイ。日本のメディアでは、絶対に取りあげられないような人たちである。
最終回の第4回(7月11日発売号)は、多少知名度が上がって決勝の主審を務めたマーク・クラッテンバーグが選ばれている。自他ともに認める世界最優秀レフリーでありながら、判定と人間的評価のどちらでも賛否両論が起こり、評価が定まらないクラッテンバーグとは、いったいどんな人物であるのか。
来年のワールドカップでは、決勝審判の栄誉に浴する可能性が高いにもかかわらず、どうして彼は保障された輝かしいキャリアに興味を示さずサウジアラビア行きを決めたのか? パトリック・ソウデン記者が真相に迫る。
監修:田村修一
英国のプロ審判協会の表彰式に欠けていた、1人の男。
EURO2016の決勝レフリーは、このシーズン終了直前にサウジアラビアに好条件で移っていった。いったい彼の何がイングランドでは批判の的になっているのか――。
先日、イングランドのプロ審判協会は、栄誉を称えるに値する幾人かを表彰した。その中にはサイモン・ベックとジェイク・コリン、アントニー・テイラー、アンドレ・マリナーも入っていた。ベックとコリンは昨年のチャンピオンズリーグ決勝、アトレティコ・マドリー対レアル・マドリー戦とフランス対ポルトガルのEURO2016決勝でアシスタントレフリーを務め、残るふたりはそれぞれ予備審判に名前を連ねていた。ヨーロッパでも最高レベルのユニットである。
だが、表彰者の中に、ふたつの決勝の影の主役であったマーク・クラッテンバーグ主審の名前が欠けていた。
何か見落としがあったのか?
そうではない――チェアマンであるマーク・リレイが、クラッテンバーグはもはや協会には所属していないという理由で、意図的に表彰リストから外したのだった。