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プレミア屈指の名審判がサウジへ。
高年収の代わりに失ったW杯決勝の笛。
text by
パトリック・ソウデンPatrick Sowden
photograph byPierre Lahalle
posted2017/07/26 11:00
プレミアリーグ最高の審判として評価がある一方、ピッチ上での彼の振る舞いを非難する人もいる……。
1年間で、FA杯、CL、EUROの各決勝で笛を吹いた。
クラッテンバーグは、2016年のグランドスラム(FAカップ決勝とチャンピオンズリーグ決勝、EURO決勝)に加え、2012年ロンドン五輪決勝でも笛を吹いた。ワールドカップへのこだわりはもはやないのかも知れない。
口さがない人たちは、イングランドがワールドカップ決勝に進む可能性がほとんどないのだから、彼が決勝の笛を吹くチャンスは大いにあるのにと皮肉っているが……。
ウェッブのように、クラッテンバーグの決断に理解を示しているのは例外的である。
また人間性だけでなく、レフリーとしての資質にもときに疑問が向けられる。
例えばポルトガルサポーターは、EURO決勝でクリスティアーノ・ロナウドを負傷退場に追いやったディミトリ・パイエに対して、クラッテンバーグが何の処罰も下さなかったことに憤りを感じているし、逆にフランスサポーターは、ローラン・コシェルニーに不必要なイエローカードを出したために、エデルの得点場面でコシェルニーが思い切った守備ができなかったと考えている。
同様にエバートンのサポーターは、2007年のリバプールとのダービーで、ディフェンダーのトニー・ヒバート(エバートン)にやはり不適切な警告を与え、その後スティーブン・ジェラードとほんのちょっと口論したために累積退場処分を科したことを、今も繰り返し語っている。その後、クラッテンバーグはエバートンのすべての試合から外されている。
疑惑の判定だけでなく、資格停止処分の汚点もある。
2004年8月にクラッテンバーグは、29歳の若さでプレミアリーグ最年少レフリーの記録を塗り替えてデビューを果たした。
まさにエリート中のエリートであるが、彼には疑惑の判定以外にも履歴書に幾つかの汚点がある。
その最大のものが、2008~09年にかけての資格停止処分である。
本業である電気店が倒産し、7万ユーロの負債を背負ってしまったのが遠因だが、当時、彼には「チャリティーシールド」(現・FAコミュニティ・シールド/プレミアのスーパーカップ)の主審が割り当てられていた。その重要な仕事が、公表の最終段階で取り消されたうえ、審議の結果8カ月の資格停止処分が科せられたのである。