“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
ゾーンに入ると、乾貴士は微笑む。
伝説の“セクシーフットボール”再び。
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![安藤隆人](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/b/f/-/img_bf61245775818e993f7b27afcadd69be52906.jpg)
安藤隆人Takahito Ando
photograph byAsami Enomoto
posted2017/06/12 14:30
![ゾーンに入ると、乾貴士は微笑む。伝説の“セクシーフットボール”再び。<Number Web> photograph by Asami Enomoto](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/5/c/700/img_5c90ee95f91db479c6c542fbe218ed6b156653.jpg)
香川真司が欠場するイラク戦では代わりに10番を背負うことになった乾。「華麗かつ結果を出す」プレーができるか?
乾が試合中に微笑むのは「ゾーン」に入った証拠。
2005年の1年間は、乾のプレーを見ることが楽しみの1つになっていた。
彼のプレーを喩えるなら、まさに「洗練された舞」。
類い稀な足下の技術から繰り出す変幻自在のドリブル、そして針の穴を通すような正確なスルーパス、そしてヒールキックなどのトリッキーなプレー――観衆を魅了して止まない、エンターテインメント性に溢れたプレーをピッチ上で披露し続けていた乾。
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彼がその才能をピッチ上で発揮できている証が、プレーの切れ目に周りへ見せる「笑顔」だ。
彼がピッチ上で笑顔を見せる時は「ゾーン」に入っている証拠であり、自分の想い描いたプレーがしっかりできている時なのだ。その笑顔が出た時こそ、彼のすべてのプレーが「舞」となって、ピッチ上が「劇場」に変わる時なのである。
筆者はこの舞をこれまで何度も見てきた。
高校時代で一番のインパクトは、第84回選手権決勝の鹿児島実業戦で、優勝を決めた決勝ゴールだった。
野洲高校から横浜Fマリノス……今はスペインで。
このゴールは今も高校サッカーファンの間では伝説となっている。
1-1で迎えた延長後半7分、カウンターを仕掛けた野洲は、左サイドのパス交換から、大きく右へサイドチェンジを図ると、そこに待ち受けていた乾が正確なトラップでボールを足下に収め、中央へドリブルを開始。左右両足の細かいステップによって押し寄せてきたDFを翻弄しながら、鋭い切り返しから中へ。さらに、ドリブルすると見せかけた瞬間……相手の意表を突くヒールパス! 観客を大きくどよめかせた直後、ぽっかり空いた右サイドのスペースに味方が入って、すぐさま決勝弾が生まれた。
この一連の流れはあまりにも美しく、この瞬間、ピッチ上はまさに乾の舞を観るための劇場と化していた。
高校卒業後に入団した横浜F・マリノスでは、一時不遇の季節を過ごしたが、彼のテクニックと舞は錆びることなく、2008年6月に移籍したセレッソ大阪で香川真司という最高のパートナーを得て、再び躍動。香川との共演で、何度も観客を魅了する舞を見せてくれていた。
そして、2011年8月にドイツ・ブンデスリーガ2部のボーフムに移籍し、海外でのキャリアをスタートさせると、1部のフランクフルト、2015年には自身の憧れの国であったスペイン、リーガ・エスパニョーラのエイバルへ移籍。
エイバルで不動の地位を築くと、今年5月のバルセロナとのリーガ最終戦で圧巻の2ゴール。満員のカンプノウをその美しい舞で「乾劇場」に変えてみせた。