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生涯賃金を部員に考えさせる野球部。
沖縄・美里工の一風変わった文武両道。 

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byKyodo News

posted2017/05/19 07:30

生涯賃金を部員に考えさせる野球部。沖縄・美里工の一風変わった文武両道。<Number Web> photograph by Kyodo News

選抜出場を果たすと同時に、国家資格も得る。美里工の取り組みは部活と学業を両立した好例だ。

「いい就職を目指しながら部活動をやるべき」

 前任の浦添商では簿記や商業の資格、情報処理コンピュータなどの技術、普通科の高校では、英語から取り組ませて勉学の意欲を高め、大学進学を目指したこともある。学校の特色に合わせた文武両道が、神谷の指導だった。

 その中で美里工は神谷にとって初の工業科赴任だった。当初は工業高で文武両道をどう実現させていくか思案したそうだが、全国の工業高を視察することで、進む道を見出していった。

「ある野球の強豪校が、国家資格の講習がない学科に部員を入れているという話を伺いました。なぜそうするのかというと、資格取得のための講習があると練習ができないからです。でも僕はそれは違うんじゃないかと思いました。むしろ工業高校の良さを生かして、いい就職を目指しながら部活動をやるべきだと思ってスタートしたんです」

 資格取得は簡単なものではない。授業だけではなく技術習得も必要なため、早朝や放課後の時間を使って講習を受けなければいけない。それを練習と並行していくのは至難の業だが、両立しないことには生きる力が養えないと生徒たちに伝えてきた。

「生涯賃金がどうなるかが大事だという話をします」

「子どもたちに常々言ってきたのは、将来、人生の勝利者になるということ。いかに社会に出てから仕事をちゃんとやって、幸せな人生を送るか。そのためには高校時代に勉強するのが大事だよ。そうすれば幸せになれるし、好きなことができる。今の勝ち負けではなくて、生涯賃金がどうなるかが大事だという話をします。そうした話をしていくと、将来のことを考えるようになり、勉強をしたり、周りを見る目が出てくるようになります」

 もちろん資格を取るだけではなく、野球の練習もレベルの高いものを採り入れている。

 グラウンドでは実戦的な練習を多くし、アメリカで開発されたクロスフィットトレーニングを組み込み、食事面にも気を配っている。甲子園の上位を目指すという目標には一切のブレがない。昨夏は県大会準優勝、この春も九州大会に出場しているほどだから、その取り組みの志の高さがうかがい知れる。

【次ページ】 「第一種電気工事士」の資格取得で全国1位に。

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