野球善哉BACK NUMBER
生涯賃金を部員に考えさせる野球部。
沖縄・美里工の一風変わった文武両道。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2017/05/19 07:30
選抜出場を果たすと同時に、国家資格も得る。美里工の取り組みは部活と学業を両立した好例だ。
生きるために、高校時代に身につけるべきもの。
神谷は前任の浦添商で'08年夏に、沖縄県大会決勝で東浜巨(ソフトバンク)、嶺井博希(DeNA)を擁する沖縄尚学を破って甲子園に出場し、本大会でもベスト4に進出している。そして美里工が6校目の指導となる。
神谷の指導は端的に言うと「文武両道」だ。
なぜ、神谷が「文武両道」を指導の根幹に置いたのかに耳を傾けると、高校球児が学ぶべき大切なものが見えてくる。
「甲子園に行って上位に入りたいという目標や、プロ野球選手になる夢を持っている子もいます。でも、その夢や目標は叶うかもしれないけど、叶わないかもしれない。しかもプロに入団したら将来が安心できるかといったら、プロの道も厳しい。生きるために、将来のために、高校時代に何をするべきかといえば、生きる力をつけないといけない。
その生きる力をつけるためには、専門高校ではその学校の専門性を生かした資格を取って、それを身につけることが、将来の生きる力につながると思います」
美里工では、国家資格取得を選手たちに義務付ける。
美里工では、電気工事士など国家資格取得を選手たちに義務づけている。というのも、工業科で得られる資格の数々が、生徒たちが就職活動する際に重要なものとなるからだ。
神谷の話によれば、工業系高校には求人が多いという。就職先には沖縄電力やANAをはじめ大手企業の名もある。「工業高校ってすごいところなんです。資格を得て就職すると、どこも給料がいい。工業関係の就職は2、3割賃金が高いんです。1000人以上の社員を持つ大きい一流企業に入ると、中小企業の大卒より給料が高いというデータまである」と神谷はいう。
もともと、神谷は数多くの高校で指導する中で、部活動と勉強の両立を生徒たちに求めてきた。進学校だけが「文武両道」を実践できるのではなく、学力や特徴の異なるどんな高校の生徒でも可能だと考えたからだ。