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「精神的にバグりました。自分が沼に」「嬉しさと畏敬の念、戸惑いが」“憧れの羽生善治戦”を筆頭に…タイトル経験者が語る“激痛の順位戦”
posted2025/04/20 06:01

高見泰地七段(左)にとって、第83期順位戦B級1組でのターニングポイントとなったのは羽生善治九段との一局だった
text by

大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph by
Asami Enomoto/Nanae Suzuki
現役大学生として戦った順位戦の難しさとは
残暑が厳しかった昨年9月5日、高見は近藤誠也八段と対峙していた。3学年下でプロ入りは4年遅いが、高見がC級2組でくすぶっている間に抜き去っていった若手強豪である。
高校3年生で棋士になった高見はまごうことなきエリートだが、C級2組に8期も在籍した。最初の5期は大学に通っていた時期と重なっており、将棋だけに集中することが難しかった。
「大学生になって少しすると順位戦が始まりました。片方だけでも慣れていないのに、両立は厳しかった。序盤はずっと課題ですが、当時は全く知識がありませんでした。自分は終盤型で逆転勝ちが得意なのですが、持ち時間が6時間の順位戦だと優勢な側にしっかり考えられてしまい、そのまま勝ち切られることが多かった。平日は学校で、将棋の研究会はできませんでしたし。それは棋士としてどうなのかという意見もあると思いますが、自分なりに精一杯生きていました」
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大事な友人もできたし、他の棋士と違う道を選んだことは高見の個性である。忸怩たる思いはあったが、C級2組の7期目が始まる前に叡王のタイトルを獲得したことで払拭されたという。とはいえまた新たな悩みが生じ、身体を蝕むほどの苦しみとなるのだが、それは後で記す。
精神的にバグりましたね
近藤戦は先手番で相掛かりを採用した。以前は矢倉を得意戦法にしていたが、序盤の研究に力を入れ始めた近年になって用い始め、すっかり板についた作戦である。
研究通りに進み、そこから離れても高見の指し手は快調そのもの。臆することなく激しい順に飛び込んで優位を築いた。
だが好事魔多し。
「かなり見えにくい3手1組の好手順があったのですが、それを逃してしまいました」と高見は悔やむ。とはいえまだAIの評価値は先手がよかったのだ。近藤玉を追い込み、最後は勝ちがあったが逃してしまう。終盤戦の嗅覚でのし上がってきたといってもいい高見にとっては、痛恨の敗北となった。
「4勝1敗と3勝2敗じゃ全然違うので、『(この負けは)痛て~』と思っているうちに、次の対局が来たんです」
B級1組は13人の総当たりである。例えばC級2組からB級2組までは全10局なので、1人12局指すB級1組は他のクラスよりも対局数が多い。基本は3週間に1局あり、このハイペースが堪えるという話は、私もよく耳にしていた。