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現役ラガーマンで、教師で大学生。
小野澤宏時のデュアルキャリア人生。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byAFLO
posted2017/04/25 07:00
彼が一流のラガーマンだったからこそ許された側面はもちろんあるが、小野澤宏時のキャリア形成は多くの人の参考になるはずだ。
「24時間すべて競技に注ぐ」と違う異色のスタンス。
社業から解放されて競技に専念できる環境を与えられたアスリートは、ほぼ例外なく「24時間すべてを競技に注ぐ」といったスタンスを選ぶ。小野澤もまた、ラグビーへの情熱を燃やしていった。そのうえで、「欲張って」生きていくのである。
「午前中に自分ひとりでウエイトトレーニングを1時間半やって、午後にチームのトレーニングが2時間あった。そのあとパーソナルトレーナーについて、リカバリーをしても、まだ時間はかなり残っていますよね? その残りの時間は身体を休めることに専念して、それによって100%のプレーができるならそれもいいけれど、僕はもっと欲張って生きていったほうがいいと思っています」
「欲張った時間の使い方をしないと人生は面白くない」
日々のトレーニングと学びの時間を両立する小野澤は、ラグビー界では異質の存在だった。教員免許を取得しただけでなく、筑波大学の大学院へ進学するのである。
ついには、現役選手の立場で教壇に立つ。2015年から静岡産業大学で、一般教養の体育の授業を受けもっているのだ。
「ラグビーは企業スポーツで、トップリーグは収益事業ではありません。現役を引退したら社業に専念する選手がほとんどですが、僕は契約形態を変えた時点でそのルートからは外れました。社員選手でなくなったときに取材を受けて、『安定という選択肢を脇に置いた理由は?』と聞かれたことがあります。僕は『自分の選択は間違えていなかったと死ぬ時に言えるように、頑張るしかない』と答えたんですが、会社員だってミスをしたら立場は危うくなるかもしれない。未来は誰にも分からないので、その時々でいい準備をしたいなと」
小野澤のデュアルキャリアの本質は、「いい準備をしたい」という思いに凝縮されている。アカデミックな関心の芽生えとラグビーを、彼は切り離していないのだ。
「ラグビーを終えたあとへの不安から色々なことをしてきたというよりは、欲張った時間の使い方をしないと人生は面白くない。欲張ってやっていったことが貯金になる、という考え方ですね。色々なことを経験して人間としての貯金を増やしていけば、選手としてもきっと面白い選手になる。それがプレーヤーとしての価値につながり、長く現役を続けられるかもしれない、とも考えていました」