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ミランの帝王ベルルスコーニが去る。
偏狭で、強権で、魅力的な男だった。
posted2017/04/18 11:30
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
AFLO
シルビオ・ベルルスコーニについて、何か書かなければならないとき、いつも困ったことがあった。
無視できなさそうな肩書きが多すぎる。
イタリア共和国元首相。
民放3チャンネルを抱えるメディア王。
不動産や金融資産を保有するイタリア有数の大富豪。
無理やり日本で喩えるなら、かつての小泉純一郎と渡邉恒雄を足して2で割ったら近いかもしれないが、ベルルスコーニは脱税で有罪判決も受けたことがある上に、美人女優と浮名を流して不倫や離婚を繰り返した挙句、未成年買春に乱交パーティ疑惑といった下半身のスキャンダルにも事欠かないのだから、もはや存在自体が荒唐無稽という他ない。イタリア現代史における怪物だとつくづく思う。
だけど、サッカーファンにとって何より重要な意味を持っていたのは“ACミランのオーナー(会長)”という称号だった。
クラブ買収から31年、ついにミランを去る帝王。
2017年4月13日、中国人実業家、李勇鴻(リ・ヨンホン)によるミラン買収が正式に成立した。
49歳でミランを買収してから31年、ベルルスコーニがミランの帝王の座から降りるときが来た。
「胸の痛みとしみじみとした気持ちに浸りながら、私はミランを去る。今や(現代サッカー界で)競争力を保つためには、一家族が支えられる程度では及ばない額の投資が求められているのだ。心からの『Grazie(ありがとう)』を、ミランのファンたちに贈りたい。新しいオーナーの素晴らしい成功を祈っている」
ベルルスコーニがミランへ注ぎ込んだ総額は、どう計算しても1,000億円を下らない。多額の私財をミランへ注ぎ込む理由を問われるたびに彼は答えた。
「問題は金ではない。心の問題なのだ」