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ミランの帝王ベルルスコーニが去る。
偏狭で、強権で、魅力的な男だった。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2017/04/18 11:30
元首相、メディア王、数々のスキャンダル、そしてミランの帝王。ベルルスコーニの評価は分かれるが、その存在の巨大さだけは誰も否定できない。
監督の采配にも、フォーメーションにも口を出す。
ワンマン会長ベルルスコーニに、現場介入するなと言える人間は皆無だった。2トップとトップ下を置くお気に入りの布陣を歴代の監督たちへ強要し、従わなければ容赦なく首を切った。
'99年の逆転スクデット監督ザッケローニには、自身がお気に入りだった天才MFボバンの起用法を批判しながら「生地(=選手)は最高級でも、仕立て屋(=監督)の腕がまずくてはいい服は作れん」とケチをつけた。
現役引退後も長年クラブに仕えてきたレオナルドも、'09年に監督になって初めて、会長の現場介入の煩わしさに気づいたらしい。シーズン後に首を切られた後、「ベルルスコーニはナルシスト。二度といっしょに働かない」と毒を吐いた。
わがままな帝王は昨季、泥臭い4-4-2で健闘していたミハイロビッチにも「これほど醜いミランは見たことがない」と難癖をつけ、シーズン終盤に解任劇を引き起こした。
「“監督”ベルルスコーニがついに勇退」というジョーク。
とはいえ多くのカルチョ・ファンは、先日のクラブ売却成立に際し、有名コメディアンが発した「在任31年の最長記録をもって“監督”ベルルスコーニがついに勇退」というジョークにニヤリとしながらも、一抹の寂しさを覚えたにちがいない。
シルビオは実業界で財を成し、政界でも一国の首相にまで上り詰めた。美女と浮名を流し、何よりサッカーで5度欧州の頂点に立ち、日本で3度も世界一になった。
ベルルスコーニは、最も思い出深いタイトルの1つとして、'89年のチャンピオンズカップ(現チャンピオンズリーグ)優勝を挙げている。
ビッグイヤーを両手で抱える彼の写真がある。写真の中のシルビオは、まだ黒髪のMFアンチェロッティとDFマルディーニに両脇から担ぎあげられて、少年のような満面の笑みを浮かべている。