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ミランの帝王ベルルスコーニが去る。
偏狭で、強権で、魅力的な男だった。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2017/04/18 11:30
元首相、メディア王、数々のスキャンダル、そしてミランの帝王。ベルルスコーニの評価は分かれるが、その存在の巨大さだけは誰も否定できない。
選手全員が「この男は頭がおかしいにちがいない」。
15日に行われたミラノ・ダービーに姿を見せることなく、29個の国内外タイトルと数えきれない思い出を置き土産に、ベルルスコーニはサッカー界の表舞台から退いていった。
「最初にベルルスコーニと会ったとき、私たち選手は全員『この男は頭がおかしいにちがいない』と思ったものだ」
都合21シーズンをミランで過ごした元DFコスタクルタは、そう第一印象を振り返った。育成部門で育った彼がトップチームに昇格した時期は、ちょうどベルルスコーニが会長に就任した頃と重なる。大音量の『ヴァルキューレの騎行』をBGMに、ヘリコプターに乗って登場した、有名な'86年夏のチームお披露目イベントは忘れようがない。
「(会長の命令で)全員お揃いの高級スーツを着せられて、靴まで皆同じものをピシっと揃えられた。今では当たり前でも、当時のサッカーの世界ではありえないことばかりだった。『数年のうちに世界一になるんだ』と会長から言われても、ピンとくるはずがなかったよ」
しかし、常ににこやかな笑顔を浮かべたミラノの小男は、夢物語を現実のものにした。
栄光を享受した者にとって、彼は頼れるボスだった。
世界中の一流プレーヤーを次々と買い集め、革新的な指導者アリゴ・サッキを招聘し、最強のチームを作り上げたことは今さら書き記すまでもないだろう。
コスタクルタは、試合前のロッカールームで熱弁を振るって選手を鼓舞したベルルスコーニの姿を思い出す。栄光を享受できた者にとって、彼は頼れるボスであり、慕うべき家長だった。
「我々DFたちには、具体的な数字を挙げながら『君たちは今までにこれだけオフサイドトラップを成功させてきたんだ。自信をもってやりなさい』と勇気づけて、試合に送り出してくれた。会長はいつも物事のポジティブな部分を見ようとしてくれた」