野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
世代交代中の阪神を牽引する新主将。
福留孝介、若手を鼓舞する40歳の経験。
text by
酒井俊作(日刊スポーツ)Shunsaku Sakai(Nikkan Sports)
photograph byKyodo News
posted2017/03/30 07:00
春季キャンプの守備練習にて。若手の横田(左)、高山(中)らに声をかける福留。左胸の上には、キャプテンを表す「C」のマークが。
いつものキャッチボールにも福留の野球観が。
グラウンドでの発想力にも野球観がにじみ出た。
キャンプでは連日、野手がキャッチボール相手を代えていた。普通はいつも同じ相手だ。珍しい光景なので、担当コーチの発案だと思い込み、現役時に名ショートで鳴らした内野守備走塁コーチの久慈照嘉に聞くと、感心したように言う。
「孝介に聞いてよ。内野なら内野手同士でしたり、ショートはゲッツーで呼吸を合わさないといけないから、二遊間でキャッチボールしたりするけどね。球筋が分かるというのもあるだろうし、新しい試みは、どんどんやっていけばいい」
福留の提案だった。
練習のための練習ではなく、試合のための練習なのだ。その思いが根底にあるから、子どもでも真っ先に行うキャッチボールにすら、プロ野球選手が執着する。
その意図を問えば「そんなに大したことじゃないよ」と受け流したが、続けて、こう話した。
「常に新しいことをやろうと考えている」
「試合では同じ人だけに投げることはない。昨日はトリ(鳥谷)とやったけどね。いつも同じメンバーでキャッチボールしてても、球筋は分かりきっている。トリとも話したけど、若い子とやることで気づくこともある。どういう球の回転をしているのか。どういう球筋なのか。常に新しいことをやろうと考えている」
1点を巡る攻防が、勝敗を左右する。例えば、外野手から内野のカットマンに送球する中継プレーがある。外野手の球筋がシュート回転気味だと分かっていればカットマンもポジション取りを微妙に変えられる。あるいは、1秒未満の差で本塁突入の走者を刺せるかもしれない。
福留は、かつて遊撃手で中日にプロ入りし、やがて外野のスペシャリストとして5度のゴールデン・グラブ賞に輝いた。内野手、外野手の思いを知るからこそのアイデアだろう。野手がディフェンスで見せる「あうんの呼吸」は接戦でこそ、際立つのだ。