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名手・宮本慎也だからわかる、
名手・菊池涼介の“ミス”の凄み。
posted2017/03/30 11:20
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Nanae Suzuki
ミスしてなお異才が際立つ。名手とはそういうものなのか。まだ脳裏に生々しい熱狂を呼び起こす。
日本時間3月22日、WBC準決勝。息苦しいほどの均衡が破れたのは4回1死、アメリカの3番打者イエリッチの打球を二塁手・菊池涼介が弾いたことがきっかけだった。二塁まで進まれ、最後は2死一、二塁からこの走者がタイムリーで先制のホームを踏んだ。
誰もが諦める打球をそのグラブに収めてきた男が正面の打球を取り損なった。
「悪い流れを作ってしまった。1つのミスが取り返しのつかないことになってしまった」
雨に濡れて滑りやすい芝、硬いアンツーカー。本人は多くを説明しなかったが、理由は容易に推察できる。そして、その落胆ぶりも……。
ただ、今大会で本誌『Number』の解説を担当した宮本慎也氏はこれが菊池だからこそのミスであり、逆にその凄みを証明しているという。
「菊池の守備力だからこそ起きるミスだった。彼だからこそ、あそこに守れる」
宮本は深い守備位置の裏に、菊池の勇気を見た。
ポイントは菊池の立っていた場所だった。
ドジャースタジアムは内野が芝、ランナーの走路がアンツーカーで外野が再び芝になっている。この時、菊池はアンツーカーよりも後ろ、外野の芝に数歩踏み入ったところにいた。
これは普段、本拠地とするマツダスタジアムでも、さらに1次、2次ラウンドを戦った東京ドームでも同様だ。
「ヒットだ」と天を仰いだ瞬間、その打球に菊池が追いついている――何度も見たそんな美技の土台となっているのがこの深い守備位置だ。