プレミアリーグの時間BACK NUMBER
CL大量失点、謎のサンチェス外し。
「ぬるま湯」化したベンゲル采配。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2017/03/11 11:30
手塩にかけた若手と、各国の名手を融合させる路線で戦い続けたベンゲル。しかし主力の心をつかめなければ、持ち味の攻撃的スタイルは輝かない。
サンチェス外しは「和」なのか「ぬるま湯」なのか?
エースを外したベンゲル采配を「ルート・フリット状態」と評したのは、トッテナムで指揮を執った経験のあるハリー・レドナップだ。17年半前の話だが、サンダーランドとのダービーでのこと。当時ニューカッスルの監督だったフリットは、エースのアラン・シアラーをスタメンから外し、敗戦。その3日後に解雇された一件だ。控え選手欄にエースの名前があるメンバー表は、メディアでフリットの「遺書」と呼ばれた。
当時就任2年目だったフリットと、アーセナルで21年目のベンゲルとでは、監督としての格も実績も比較にはならない。地元出身の英雄でもあったシアラーに対し、サンチェスは移籍3年目の外国人という違いもある。
だが、チームに欠かせないエースという視点で眺めれば、サンチェスはシアラーに引けを取らない。そのサンチェスをリバプールとの大一番でベンチに回したのだから、元アーセナルDFのマーティン・キーオンまでもが「理解不能」と、かつての「ボス」を非難したのも頷ける。
ベンゲルが下した判断は、「わがまま」が目に余るようになったサンチェスに対する「罰」だったと理解されている。練習グラウンドではチームメイトとの衝突があったとも言われる。
ベンゲルはチームの「和」をことさら重要視する。以前、本人からもその意識は「日本での経験でより強まった」と聞いたことがあるが、CLバイエルン戦第1レグでのサンチェスは、怒鳴り声を上げてチームメイトたちへの苛立ちを露にしていた。
しかし、その「和」が傍目には「ぬるま湯」と映るような類いに成り下がっているとしたら、どうなのだろうか?
チームを去ったファン・ペルシが口にした重い言葉。
元マンチェスター・ユナイテッドのリオ・ファーディナンドは、古巣とアーセナルにおける“文化”の違いを『タイムズ』紙上で述べていた。
その例として挙げられているのは、2012年にアーセナルから移籍してきたロビン・ファンペルシの言葉である。ファンペルシの「ここでは全てが勝利のためにある」というユナイテッド観を聞いて、「アーセナルはそうではなかったのか」との印象を持ったとのことで「今ではもっと甘い環境になっているのかもしれない」とも言っていた。
アーセナルが星を落とす度に、精神面の問題が指摘される事実を鑑みれば、ファーディナンドの見解に異論を唱える識者は少ない。