セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
長友佑都、実は周囲も驚く絶好調。
最良のSBはチームの布陣さえ変える?
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2017/03/09 11:30
フォーメーションの関係で出場時間は減っているが、選手交代のカードとして長友佑都はチームの戦力に常に数えられている。
ピオリ監督と、プラティニとの微笑ましいエピソード。
柔和な面立ちのピオリは、いかにも苦労人風情だ。
しかしその実、彼には現役時代にスクデットやチャンピオンズカップ、トヨタカップで優勝という華々しいタイトル歴がある。そのいずれもが'84年から3季在籍したユベントス時代に獲得したものだ。
加入した年のサマーキャンプ初日、たまたま近くに居合わせた“将軍”プラティニから「おい、そこの新入り。(体慣らしのパス回しを)付き合え」と言われ、当時18歳だったピオリは心底動転した。
「緊張でヒザが震えて、ボールをこぼしまくった。プラティニから呆れられた」というエピソードが微笑ましい。
ピオリはその後、名門ユーベで絶対的なレギュラーの座を獲得するには至らず、地方クラブを転々とした。34歳のとき、生まれ故郷近くのアマクラブで引退した。
指導者転向後も地道な結果と解雇を繰り返して、齢50にして、ようやくビッグクラブで采配を振るうチャンスを得た。出場機会に恵まれないリザーブ選手たちの心情がわからないはずがない。
サイドでの守備力が必要なら、長友をどうぞ。
5日の27節カリアリ戦、長友にスクランブルがかかった。
4バックの左サイドバックとして先発していたDFアンサルディが、試合の終盤に脚を攣らせると、ピオリは長友へ準備を命じた。
アップもそこそこに後半42分、長友はグラウンドへ入った。すぐにMFガリアルディーニがダメ押しゴールを決めて、祝福に駆けつける。ほとんどボールに触れず終いだったが、粛々とタスクをこなした。インテルは5-1で大勝した。
何もしなかったに等しい3分間でも、長友は指揮官にとって必要な戦力だった。
4-2-3-1の2列目で先発したMFペリシッチは、守備の負担を軽減され2得点した。監督ピオリは今後、サイドプレーヤーの起用法を再考するだろう。試合後の彼は、言葉へ静かに力を込めた。
「就任して以来15戦、私がこのチームに最適だと考える(3バックと4バックを基にした)2つのシステムでやってきて、決して悪くない結果を出してきたつもりだ。このチームはまだ戦える。ローマ戦という局地戦には負けたが、CL出場権をかけた長丁場の戦いにはまだ敗れたわけではない。私は私の選手たちを信じる」
インテルがアウェーゲームで5得点したのは4年ぶりらしい。当時も在籍していた人間は、長友を含め数えるほどしかいない。
経営者や監督が代わり、長友も30歳になった。
セリエAに挑戦を始めた7年前の夏以来変わらないのは、いつでも貪欲で前向きな姿勢だろうか。
長友が最後にゴールを決めたのはもう3年以上も前だ。
「よっしゃー!」と叫ぶ長友のガッツポーズは、やはり本番のゲームでこそ見てみたい。