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過去のWBCを「野球本」で読み解く!
王貞治、原辰徳らの本音の舞台裏。 

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中溝康隆

中溝康隆Yasutaka Nakamizo

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photograph byNaoya Sanuki

posted2017/02/14 11:00

過去のWBCを「野球本」で読み解く!王貞治、原辰徳らの本音の舞台裏。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

第1回WBCでの王貞治監督とイチロー。国代表の威信をかけた国際大会で、日本野球の強さを証明した。

日本のWBC史上、白眉ともいえる名著は……。

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『WBC 侍ジャパンの死角』
(高代延博・著/角川書店/2013年6月17日)
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 正直、王や原の歴代代表監督と比較するとネームバリューは落ちる侍ジャパン内野守備・走塁コーチ高代延博の著書……なんて侮ってはいけない。

 日本代表がV3を逃した3カ月後に出版された本書は、そのあまりの内容のガチさに野球ファンの間で大きな話題を呼んだ。

 なにせ中間管理職のコーチだからこそ見えてくるチームの様子が赤裸々に書かれていたからである。

 合宿の打ち上げの飲み会では、酔いが回った選手たちの「タカちゃん!」コールに合わせて焼酎の水割りを何回か飲み干した。実はこの時、隣に座っていた阿部慎之助が機転を利かして焼酎抜きの水だけのものを数杯しこんでくれていたという。小声で「倒れるから水にしておきました」と囁く阿部、「おまえ、ええとこあるやないか」なんて褒める高代。いやいやサークルの新歓コンパじゃないんだから。

 '13年の第3回大会はこの阿部慎之助が4番捕手でキャプテンの大黒柱。山本浩二監督は、キャンプインの初日にベテランの井端弘和、松井稼頭央、稲葉篤紀を呼んで「阿部をサポートしてやってくれ」と頼むも、誰よりも責任感の強い稲葉にとってはそれが過剰な重圧に繋がってしまったのではないかと高代は分析している。

 とは言っても、チームの雰囲気は決して悪くなく、山本監督はアメリカに着いて皆で会食した際、「オレ、あいつらとあんまり話ししたことないから」とビール瓶片手に息子より歳の離れた若い選手たちのテーブルを回ったという。

半年働いて報酬250万円というのは寂しい……。

 そして、やはりというべきか、この本も「王」本と同じく侍ジャパンの渋ちんぶりに触れている。

「WBCコーチは一種の名誉職である。前回('09年)のコーチ報酬は250万円。本当は200万円だったが、50万円は原辰徳監督の尽力で増えた分だ。250万円というのは月給ではない。ほぼ6カ月間拘束されて、この程度の報酬では厳しい」と名誉職と引き換えに、コーチや解説者のオフの就職活動を放棄してしまう余裕はないことを吐露。

 いつの時代も夢や理想だけじゃ飯は食えないのである。

 最後になるが試合描写の見所と言えば、もちろんあの世紀の凡ミス。準決勝プエルトリコ戦のダブルスチール失敗についても当事者の証言がたっぷり書かれているので、ぜひ本書を手に取って確認していただきたい。

 さて、恐らく来年あたりに出版される小久保裕紀監督が書くWBC本は、果たして歓喜の報告書になっているのか? それとも……。

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