マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高橋純平を睨み、見守る“鬼”が1人。
担当スカウトが選手のためにする事。
posted2017/02/15 07:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
プロ野球キャンプのブルペンは、午前中が忙しい。
その日のソフトバンク・宮崎キャンプのブルペンにも、和田毅、武田翔太、東浜巨、森唯斗……、ホークス投手陣を担う快腕、剛腕たちが入れ替わり立ち替わりやって来て、キャンプ第2クールの最終日、それぞれに熱の入った腕の振りを披露してくれた。
“大看板”たちが投げ終わった後のブルペンでは、近未来のホークスを背負って立たねばならない若者たちが腕を振る。
高橋純平(県岐阜商)と松本裕樹(盛岡大付)。
一昨年のドラフト1位と、その前年のドラフト1位が横に並んでピッチングを行っている。
高橋純平は左太ももに、松本裕樹は右ヒジに、ともに故障を抱えた状態でプロに進み、今季で2年目、3年目のシーズンに臨む。
その日の高橋純平はよかった。
速いボールを投げて、それで評価を得ようとしていなかった。むしろ、あるべき投球フォームを丁寧になぞるように、きちんと“半身”の状態を作り、左腰と左肩を捕手に向けてどっしりと踏み込めていた。
今、この春のキャンプで快速球を投げるためではない。来るべきシーズンに、1年を通じてコンスタントに持ち味の快速球を投げ続けるための練習になっていた。そこが昨年とは違っていた。
2月の上旬、普通なら抜けるボールもありそうなのに。
体の開きをギリギリまで我慢して、体重が左足に乗ったところで一気に体の左右を切り返すから、腕の振りの軌道がきれいなタテ軌道で、ボールを縫い目の真上から思いきり指で弾ける。
純粋なオーバーハンドで、季節は2月のまだ上旬だ。いかにプロとはいっても、これだけ腕を振れば高く抜けるボールが結構はさまってもしょうがない時期だが、およそ50球の間にほとんどそれがなかった。しっかりと指にかかって、低めでも回転のほどけない速球が次々ときまっていく。
ストレートがいいから、カーブ、スライダーも感覚として顔の前でリリースできているようだ。快適そうに、気分よさそうに投げ進める高橋純平の顔が汗に輝く。