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4分の3が私立高になったセンバツ。
公立びいき、片側応援も程ほどに。 

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安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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photograph byHideki Sugiyama

posted2017/02/08 07:00

4分の3が私立高になったセンバツ。公立びいき、片側応援も程ほどに。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

甲子園で選手たちが流すのは、勝利の嬉し涙と、力及ばず敗れた悔し涙だけであってほしいものだ。

伝統ある名門より、新興私学は立場が弱い?

 どらちも私学の高校同士の一戦なのに、どうしてそんなに“色”が分かれてしまうのか?

 理由ははっきりしていた。

 東邦高、北海高が古くからの伝統を持ついわゆる「名門校」といわれる存在で、選手たちもほとんどが地元出身のチームであるのに対して、八戸学院光星高、秀岳館高は甲子園に初めて顔を出したのがここ20年以内のいわゆる新興私学であり、選手たちの多くが地元以外からの野球留学組であることだった。

 高校野球には、かなり以前から、野球留学をあまりよく言わない文化がある。もう少しはっきり言ってしまえば、「卑怯者」扱いをされたり、ある種の「不正」を行っているような目にさらされる場面を、私は何度となく目の当たりにしてきた。

「甲子園に来てまでアウェーの気持ちを味わうとは」

 野球留学のどこが卑怯なのか。野球学校のなにが悪いのか。

 後発の私学が、経営を安定させ、世の中に存在感をアピールするために、スポーツと進学に力を入れるのは当たり前のことである。

 公立校の生徒たちが実家から通って、食事や自分の部屋の掃除、ユニフォームの洗濯をすべて親に頼って過ごしている間に、15歳で親元を遠く離れ、制約の多い寮生活で身の回りのことすべてを自分でこなして3年間を過ごす野球留学生たち。

 自分の好きなこと、得意なことを見つけにくい今の世の中で、野球という“親友”を見出し、遊びたい盛りの高校3年間を野球だけと向き合って過ごそうとする“幼い覚悟”に、いったい誰が異を唱えることができようか。

 実際に彼らがどんな思いで野球に取り組んでいるかを踏まえずに発された声で、見えない場所でどれだけの懸命な高校球児の心が痛んでいるか、思いを及ばせてほしい。

 昨夏、東邦高に敗れた八戸学院光星高の選手たちはこう言って甲子園を去った。

「甲子園に来てまで、ここまでアウェーの気持ちを味わうとは思わなかった……」

 真っ赤にうるんだ目からは、涙の代わりに“憤り”の光が発せられているように見えた。

【次ページ】 選手にモラルを求めるならばファンの側にも。

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