マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
センバツ優勝投手がなぜ大学進学か。
智弁学園・村上の決断を肯定する。
posted2017/02/07 08:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
プロ野球の春季キャンプが熱を帯びてきているが、高校野球のセンバツ大会も、日に日に、その開幕が近づいてきている。
そうは言っても、あと1カ月以上もあるのだが、三寒四温、目まぐるしく陽気の寒暖を変えながら、日に日に陽射しの強さを増してくる春先の1カ月は、毎年あっという間に過ぎていってしまうように思う。
去年はどこが優勝したんだっけ……。
“夏V”はわりとスッと出てくるのに、センバツの優勝校はなかなか出てこないことがある。
去年、2016年の優勝校は、智弁学園高(奈良)であった。
エース・村上頌樹(むらかみ・しょうき)の、5試合の全47イニング669球を投げ通す大奮投に強打線が呼応して、春にしてはとても完成度の高い闘いっぷりが印象的だった。
その秋、たしかドラフトの前だったと思ったが、ある人からこんなことを訊かれた。
「夏の優勝投手の今井達也(作新学院高)はプロ志望届を出して、新聞でもドラフト1位候補って騒がれているのに、センバツ優勝投手の村上はどうして志望届を出さないの?」
訊かれてみると、もっともな疑問だった。
甲子園優勝イコールプロ、ほど単純じゃない。
村上が能力の高い投手であることは間違いなかった。
3月下旬に、10日間ほどで実戦の700球近くを投げ込めること自体、すばらしい心身のタフさだが、それ以上に、調整途上のはずのこの時期のセンバツで完封を2度繰り返せる“実戦力”の高さは、この年の高校生投手の中でも一級品の資質を持っていることを証明していた。
ならば、プロでもいいじゃないか。ならば、ドラフトも上位なのではないか。
そこが、能力の“見極め”の難しさだと思う。
甲子園の優勝投手イコールプロ。そこまで、野球も世の中も、単純じゃない。
投手には“タイプ”があり、プロに進むにも“タイミング”というものがあろう。
これは、私の経験則も含んだ話になるのだが、現実をそんなに外した話でもないので、少々耳を貸してほしい。