“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
小林祐希「全て俺がやらなくていい」
“大人のプレー”を生んだ名波の教え。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2017/02/02 11:00
インタビューに応じてくれた時のオランダでの小林。海外移籍で心身ともに鍛えられている様子が、よく分かる取材だった。
エジルのような選手になるために、考えたこと。
「エジルはレアルから加入して、僅か1週間なのに、こんなに中心で馴染んでいるのが不思議だった。でも本当に上手い奴はそれが出来る。
もう『これだ!』と思って、そこからボールを持つ時間を短くして、球離れを早くしたんです。いつもならドリブルで運ぶところをパスしたり。
当時のモウリーニョ監督が『あいつはどこでもすぐに馴染める』と言ったんです。『やっぱりそういう選手にならなきゃ』と思ったんです。プレーにプラスして、言動、態度、振る舞いなどで周りを信頼させる選手。自分が上に行くには、これだと」
意識が大きく変わった小林は、そこから一気に大人への階段を駆け上がった。
2016年8月12日には目標であった海外挑戦、ヘーレンフェーン入団を果たす。「俺は海外移籍が遅い方」と常々感じてはいたが、チームメイトの平均年齢を見て、24歳の小林はさらにその意識が高まったという。
「俺は空元気でもいいからみんなを盛り上げたい」
話をフローニンゲン戦に戻す。
勝利出来ず、落ち込むチームメイトを傍目に見て、小林は落ち着いた口調でこう語った。
「選手達のストレスは凄くあると思う。良いサッカーをして勝てていたときから、良いサッカーをしても勝てなくなったのが今。でも、そこからさらにネガティブになったら、地獄への入り口になってしまうので、ここでチームとしての信念を貫かないといけない。
今日は無失点で終われたのは良かったし、決して悲観する内容じゃない。『勝ちゲームを落とした』という悔しがり方ならいいけど、『また勝てなかった』というネガティブな悔しがり方は避けたい。それに2試合続けて良い崩し、良いコンビネーションを見せた中で点を獲れなかったのは、俺以上にマルティンやサム・ラーソンとか、アルベルが気にしていると思うので、『点はいつか来るよ』と言い続けたいです。
次勝てれば良い訳だから、前に進むための声かけをして行きたい。
そのために俺は空元気でもいいからみんなを盛り上げたい。1週間、空元気で頑張ります!」
こう言い残し、小林はスタジアムを後にした。
その背中には19歳のあの頃とは違った、ついに信念を手にした大人の男の強い責任感が宿っていた。