スポーツ百珍BACK NUMBER
市立船橋の武器は高校生らしくなさ。
選手が自ら布陣を変える成熟度。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byNIKE
posted2016/12/30 08:00
Jリーグ内定が決まった(左から)杉岡、原、高。これまで市船が獲得してきた15個のタイトルを示す星を胸に、高校最後の大舞台に臨む。
無邪気な素顔とトレーニング中の張り詰めた空気感。
杉岡と高のふたりは学校のクラスでも同じということもあって、インタビュー中にはお互いの校内での様子をネタにして冗談を言い合ったり、3人が新調された市船のユニフォームに身を包んで撮影に臨むと他の選手たちがはやし立てるなど、高校生らしい無邪気な一面をのぞかせる。
しかし一度トレーニングが始まれば、強豪校特有の張り詰めた空気感が練習場を包む。
朝岡隆蔵監督は自分で考えることを要求しつつも、課題を“ほったらかし”にすることはない。選手のワンプレーずつをつぶさに見つめ、厳しくも的確な指摘を繰り返していた。
何より興味深かったのは、3人へのインタビューで「市船のサッカーとは?」との質問に対して、それぞれが口にした冒頭のコメントだ。それぞれ原、杉岡、高の口から発せられた言葉で、表現こそ少しずつ異なる。とはいえ大人のチームという点については、本人たちも自覚するところなのかもしれない。
相手に合わせて戦い方を変え、流れを引き寄せる。
サッカーに限ったことではないと思うが、高校生は“自分たちのやってきたこと”をいかに出せるかが重要で、スポーツにおいてはその差が勝敗を分ける大きなポイントとなる。その“自分たちのやりたいこと”を極限まで追求した高校の代表格は、今大会で10度目の出場となる野洲(滋賀)、昨年度の選手権で準優勝した國學院久我山(東京)といった辺りだろう。
一方で、市船の場合は自分たちのやってきたことを出しつつも、相手に合わせて戦い方を変える力を持って臨んでいるように映る。
印象的なのは、選手権千葉決勝である。
総体決勝の雪辱に燃える流通経済大柏の気迫に、キックオフ直後こそ押されながら終わってみればスコアは2-1。終了間際には相手が仕掛けてきたロングスロー攻勢をしのいで勝ちきった。強さを感じたのは、自分たちで流れを引き寄せた点だった。