“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
元日本代表GKの父と週1で特訓――。
ヴィッセル内定・前川黛也の強み。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2016/12/22 11:00
前川黛也のサイズの大きさ、そして表情。かつて広島の守護神を務めた父の姿が想起される。
毎週月曜日のオフに、公園の一角でGK練習。
「僕にGKとしての基礎を教えて欲しい」
そう黛也から言われた和也は、彼の覚悟を固めた目を見た。
「本人の意欲を感じたし、彼なりにしっかりと考えているなと思った」
ここから本格的な“親子鷹”がスタートした。和也は当時から現職でもあるFCバイエルン常石の指導者を務めており、クラブがある福山市に単身赴任をしていた。毎週月曜日がオフで、その度に家族の待つ広島市に帰って来る生活を送っていた。この毎週月曜日はGK練習の時間となり、近所にある公園の一角で、黛也の1つ年下の弟と3人で黙々と練習に打ち込む日々が始まった。
「僕はもう全くの素人状態で、GKとしての下地が何も出来ていなかった。なので、とにかく前を向いて、吸収出来るものはどんどん吸収して行くしか道がなかった」
怪我だらけで万全とは程遠い状態だったが。
公園には少しだけ雑草が生えている一角があった。そこで黙々と繰り広げられる基礎練習。そこには必死で前に進もうとする黛也と、それを温かくも厳しく受け入れる和也の姿があった。
だが高校に入ってからも、さらに身長は伸び続けた。結果、中学時代に苦しめられた怪我が、ここでも黛也に容赦なく襲いかかった。
「高校ではいろんな壁に当たって、本当に苦しかった。足首、グローインペイン、ヘルニアなど、怪我を頻繁にしてしまいました。特に高2は手の怪我とヘルニアが一気に来て、ほぼ1年、万全な状態でやれていませんでした」
だが、彼は絶対に諦めなかった。週1の親子練習は継続し、GKとしての基礎的な身体の向き、考え方、状況判断などを吸収し続けた。そして、苦しむ彼を支え続けたのは、父の言葉だった。