濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
山本美憂、RENA、グレイシー……。
RIZINの“幻想”路線は大成功だった。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2016/09/27 16:30
ヒクソンは「400戦無敗の男」として数多の格闘家を沈めてきた。かつて総合格闘技界に衝撃を与えた父のような存在にクロンは上り詰められるか。
ヒクソンの次男・クロンの試合に感じたリアリズム。
とはいえ、リアリズムはやはり強い。この日、シュートボクシング王者のアンディ・サワーはMMA2戦目でダロン・クルックシャンクに敗れた。打撃対決が期待されたこの試合だが、長くUFCで活躍してきたクルックシャンクは、試合開始直後にテイクダウンすると、あっさりリアネイキッドチョーク(RNC)を極めている。
クルックシャンクにとって大事だったのは、主催者や観客の期待に応えることより、相手の弱点を突くことだった。ストライカー相手に寝技で勝負するのは当然の話。ミもフタもないけれど、つまりそれがリアリズムだ。
リアリズムを乗り越えたところに生まれる幻想。今大会で最も強くそれを感じたのは、クロン・グレイシーの試合だった。ヒクソン・グレイシーの次男であり柔術の強豪。グラップリングマッチでは青木真也に一本勝ちしたこともある。
クロンの“これしかない”が上回った。
そんなクロンが、MMAキャリア3戦目にしてメインイベントで所英男と対戦した。ZST、HERO'S、DREAMそしてケージファイトと、最前線で身体を張ってきた日本を代表する格闘家である。65.8kgという契約体重は所にとってベストより少し重かったかもしれないが、MMAのキャリアには大きな差がある。
常に“極め”を狙って動き回るスタイルの寝技、加えてパンチも一級品だ。セコンドの勝村周一朗が「一本、KOじゃなく判定勝ちを狙わせるくらいでちょうどいい」と言うほどの“攻めたがり”がアダになることもあるが、クロンをリアリズムで、たとえば寝技を避けて打撃を当て続けることで完封する可能性もあったのではないか。
ところが、である。試合はいつの間にかグラウンドの局面になっていた。この“いつの間にか”という感じが、いかにもグレイシーらしい。所は得意の右ストレートをヒットさせたが、クロンは臆さなかった。器用とは言えないが、自分から左フックを繰り出す場面も。
おそらく、所は打撃でも寝技でも勝負できると考えていたのではないか。一方のクロンは、寝技に活路を見出すしかなかったはず。そしてこの試合では、スペシャリストの“これしかない”が活きた。