濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
山本美憂、RENA、グレイシー……。
RIZINの“幻想”路線は大成功だった。
posted2016/09/27 16:30
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Essei Hara
昨年末にスタートしたMMAイベント『RIZIN』の特徴の一つは、大規模な興行にもかかわらずキャリアの浅い選手が多いことだ。9月25日のさいたまスーパーアリーナ大会にも、その傾向はあった。
ミルコ・クロコップ、藤田和之らベテランも出場する一方、大会セミファイナル、フジテレビの中継では最後に流れたRENAvs.山本美憂は、MMA2戦目とデビュー戦の闘いだった。ほかにもバルト、山本アーセンが2戦目、村田夏南子が4戦目、木村“フィリップ”ミノルがデビュー戦と、他のビッグマッチでは考えられないようなラインナップ。このマッチメイクから『RIZIN』を“ルーキーリーグ”だと揶揄することもできるだろう。
リアリズムよりも幻想を重視するのが『RIZIN』。
ただ、ルーキーたちによるビッグマッチは、MMAというジャンルでなら成立しうる。彼らは単なる“新人”ではないからだ。RENAは立ち技格闘技シュートボクシングの女子エース。山本美憂は女子レスリングのパイオニア的存在として知られている。アーセンはその息子、つまり山本“KID”徳郁の甥という血筋。バルトには大相撲、村田にはレスリングというバックボーンがある。木村は新生K-1きってのハードパンチャーだ。
いわば彼らはスペシャリスト。現代MMAらしいオールラウンダーではなく、技術に偏りはあるが、だからこそ試合には“他流試合”としての妙味も出てくる。
「どれだけ打撃で痛めつけられても、タックル一発で形勢逆転できるんじゃないか」
「寝技に持ち込まれたらアウトだけど、その前にワンパンチでKOしてしまうかも」
スペシャリストの闘いは、偏っているがゆえに、観客の「こうなったら凄いな」という想像、言うならば幻想を刺激する力があるのだ。リアリズムよりも幻想を重視するのが『RIZIN』、そう言ってしまっても間違いではないと思う(本当は“鳴り物入り”だけでなく、もう少し“叩き上げ”にもチャンスがあるといいのだが)。