プロ野球亭日乗BACK NUMBER
“野手脳”高橋由伸監督に、
巨人・堤辰佳GMから愛の手を!!
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/09/10 11:00
9月上旬の連敗時には「何を変えたら勝てるとかそういう問題じゃない。今まで通りやること」とコメントしていた高橋監督。そのブレない信念は本物だ。
典型的“野手脳”のラミレス監督の采配を考える。
例えば9月1日の広島対DeNA戦でこんな場面があった。
同点の9回にDeNAは先頭の筒香嘉智外野手が四球で出塁。ここで外野手出身で典型的な野手脳の持ち主であるアレックス・ラミレス監督は、送りバントではなく強攻策を選択した。これは送ったときの相手投手へのプレッシャーよりも、打者本位で宮崎敏郎内野手、梶谷隆幸外野手と続く能力の高いバッターの打力にかけた采配だったわけだ。ただ、このケースでは結果的には冒険的要素が出て無得点に終わり、試合もサヨナラ負けを喫している。
一方、6月24日の巨人戦では巨人の菅野智之投手に対して3回途中で11安打、9点を奪ってKOした。このときはまさにいい投手を打ち崩すには、待球ではなく初球から積極的に甘いボールを叩くべき、という野手脳的采配がこの結果をもたらしたわけである。
'90年代の野村ヤクルト対長嶋巨人は、時代を築いた。
1990年代のセ・リーグは、野村克也監督率いるヤクルトと長嶋茂雄監督の巨人が死闘を演じた時代だった。
野村監督のいう「弱者の野球」は捕手脳の典型で、細かなデータを駆使して相手の弱点をえぐり出して勝機を切り開いていく。当時のヤクルトは相手捕手の構えを見ると、内角か外角かをベンチから声を出して打者に知らせるなど、ありとあらゆる方法を使って相手を攻略して、一時代を築いた。
一方、そういう細かい野球へのアンチとして長嶋監督が目指したのは野手脳の野球で、エンターテイメント的な力の野球だった。
「4番打者ばかりを集めた金権野球」と揶揄されたが、それでもスター選手を集めて力で相手をねじ伏せていく。もちろんデータを無視するわけではないが、データばかりに縛られるより選手の個性を生かして、その集積としての野球を目指した。
だから両チームの戦いは面白かったし、結果的にも決して野村ヤクルトが圧勝したわけでもなく、長嶋巨人が常に勝っていたわけでもない。まさに互角の戦いでファンを熱くしたわけである。