濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
名古屋を格闘メインストリームに。
Krushが変える「地方興行」の概念。
posted2016/08/28 08:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
8月20日、名古屋国際会議場で行なわれた毎年恒例のKrush名古屋大会は、スタートから5年目となる今回、過去最高の観客動員を記録した。
2500人、超満員札止めにして前売り段階でチケット完売。東京での“K-1/Krush現象”と同様の成功を後押ししたのは、今回から名古屋大会の実行委員長に就任した佐藤嘉洋氏だ。生まれも育ちも名古屋、地方在住のままK-1 MAXや欧州トップのリングで活躍し、昨年のKrush名古屋大会で引退式を行なった彼は、まさに実行委員長にうってつけの人材だ。
記者会見や事前イベント、SNSでのアピールに加え地元の人脈を活かしてスポンサー獲得にも動いた佐藤実行委員長は、マッチメイクの面でも絶妙の“改革”を実施している。
“ご当地選手が勝てば盛り上がる”とは少し違う構図。
これまで、名古屋大会では〈名古屋vs.東京〉の対抗戦を主軸として試合が組まれてきたのだが、今回は「東京で、後楽園ホールでやっているのと同じようなカードを名古屋に持ってきたかった」と佐藤氏。メインイベントでは、小澤海斗vs.大岩龍矢の-58kgタイトルマッチが組まれている。
小澤といえば、K-1での武尊戦で相手を徹底的に挑発し、乱闘騒ぎまで起こして話題となった選手。試合では敗れたものの大善戦しており、現在のK-1/Krush戦線で最も勢いがあると言っていい。そういう選手のタイトルマッチが、地方で見られるというわけだ。挑戦者の大岩は名古屋出身だが、今の所属は東京のチームドラゴン。数多くの応援団が駆けつけていたものの、いわゆる“ご当地選手が勝てば盛り上がる”という構図とは少し違っていた。
実際、勝ったのは小澤だった。大岩のパワフルな闘いぶりに苦労する場面もあったが、延長戦で大岩をダウン寸前に追い込む左フックを放ち、王座防衛に成功。試合後は相手のセコンドについた仇敵・武尊にリマッチを要求し、場内を盛り上げた。つまり、地元出身の選手が勝つかどうかよりもタイトルマッチらしいハイレベルな攻防が観客の心を掴んだのだと言っていい。武尊と小澤の因縁が、ここで再度クローズアップされたことも大きい。そのことで、名古屋大会は“地元選手のための地方大会”ではなく“東京と地続きのメインストリーム”になったのだ。