マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
甲子園“悲劇の主役たち”の心の内。
北海、中越、光星の声に耳を傾けて。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/08/25 07:00
優勝した作新学院とともに写真に収まる北海ナイン。準優勝盾を持つ大西をはじめ決勝の舞台まで辿り着いたことは事実だ。
敗者3873校の頂点に立ったのは北海だった。
参加校数3874校。
その頂点に立ったのは作新学院だが、敗者3873校の頂点に立ったのは北海だった。
持てる力をすべて発揮して、なお力及ばず。
勝負に挑むほとんどすべてのチームが敗者になるのなら、大切なのは、「いかに勝つのか?」より「いかに負けるのか?」。
ならば、その最高の負け方を、日本中に体現してみせたのが、この夏の北海だったのかもしれない。
ヒジを痛め、痛み止めを飲みながらの奮投なのは聞いていた。
それでも、オレが投げずに誰が投げる。
そんなエースの矜持と責任感をじわっとにじませながら“北海のマウンド”を守り続け、最後の最後までそんなハンデをこちらに見せずにエースの仕事を全うした大西健斗の姿そのものが、まさに敗者の頂点だった。
9回1死までノーヒットノーランの中越・今村の力投。
持てる力をすべて発揮して、なお力及ばず。追いかけても、追いすがっても、背中しか見せてもらえなかった相手。背中に手がかかったのに、そこでスルッとその手が滑ってしまった無念。
何度考えても、どう考えても、どうして負けたのか……。
今年も勝負の理不尽が、いく度も甲子園のグラウンドで球児の涙を流させた。
中越(新潟)のエース・今村豪はすごい投球を見せていた。
9回1死までノーヒットノーラン。それが数分後に終わってみれば、たった2安打1点取られただけのサヨナラ負け。課題の失投が最後に出てしまった。
高校生がこの甲子園で100球以上も失投を犯さずに投げ続ける。そんなこと、普通は考えられない。
そんな快投に得点で報いることのできなかった打者たちには少なからず悔いが残るとしても、投手・今村豪は、持てる力をすべて発揮してなお力及ばず、3年間を全うして甲子園を去った。