スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
バルサのカンテラは終わったのか。
「強すぎるトップチーム」の弊害。
posted2016/08/05 11:00
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph by
AFLO
ルイス・エンリケ体制3季目を迎えたバルサのプレシーズンが始まった。
7月19日に始動したチームは、同25日からイングランドのセント・ジョージズ・パークで5日間のミニ合宿を行い、同30日にセルティックと今夏初のテストマッチを行った。
例年通り、主力組の大半が不在のこの合宿にはバルサBやフベニール所属のカンテラーノが多数参加。セルティック戦では11選手にプレー機会が与えられ、そのうち9人はこの試合でトップチームデビューを果たしている。
しかしその中で、今後もトップチームでチャンスを得られそうな選手は1人もいない。少なくとも今季についてはそう断言できる。
かれこれ10年以上も欧州トップレベルを維持するトップチームの陰で、かつて世界最高の育成機関と称えられたラ・マシアはここ数年、冬の時代と言える状況が続いている。
特にルイス・エンリケが就任した一昨季からは、各ポジションに即戦力の補強を進めたことで、トップチームへの扉を閉ざされた多くの若手有望株がクラブを去っている。
しかもクラブは手塩にかけて育ててきたカンテラーノの多くを、破格の安値で放出してきた。今夏も例外ではない。
4番手のCBをわずか800万ユーロで放出。
最も驚いたのはバルトラのドルトムント移籍だ。
トップチーム所属4季目の昨季も、ピケ、マスチェラーノ、マテューに次ぐ4番手の序列は変わらず、全公式戦を合わせて24試合の出場にとどまった彼が移籍を決意したことは理解できる。
驚いたのは過去2シーズンを通して規定の出場時間に至らなかったことで、彼の違約金が4000万ユーロから800万ユーロに激減していたことだ。
ルイス・エンリケの信頼を勝ち取ることはできなかったものの、バルトラのポテンシャルは誰もが認めるところである。先のEURO2016でもスペイン代表に名を連ねた25歳の価値を考えれば、どう見積もっても800万ユーロは安すぎる。
そのような条件を認めていたこと自体がまず驚きだが、そんな状況下でも「彼のことは心配していない。出て行かせはしないよ」と根拠のない余裕を見せていたロベルト・フェルナンデスSDの場違いな発言にも疑問を抱かされた。