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長谷部誠「少し感傷的というか……」
残留の切なさは、長いキャリアの証。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byAFLO
posted2016/05/25 17:00
長谷部誠は残留を決めた直後も、嬉しそうな表情は見せなかった。各クラブといい関係を結んできたことの、辛い一面だ。
残留はしたものの、自分のプレーに不満足。
試合後、フランクフルトの選手やコーチ陣を含めたスタッフはピッチの上で残留の喜びをわかちあうと、残留を決めたことを祝うTシャツに身を包んで、アウェーまで応援にかけつけたサポーターのほうへと向かっていった。
長谷部も同じようにゴール裏のサポーター席へとむかったが、Tシャツに袖を通すことはなく、チームメイトが喜びを爆発させるのを少し引いた位置から見守っていた。純粋に喜べない、複雑な感情があった。
今シーズンの自身のパフォーマンスと、入れ替え戦でようやく残留を決めたチームの状況を冷静に見つめると、喜んでばかりもいられないのも事実だ。
「監督が代わってからはずっとボランチで出られました。最初はあまり良くなかったですけど、尻上がりによくなってきた部分はあると思います。ただシーズンを通して、右サイドバックをやったときもそうだし、色々な状況での自分のパフォーマンスに関しては、今シーズンは満足できるものではなかった。与えられたところで、もう少し高いレベルでプレーしたいという思いがあります」
長谷部「少し感傷的といいますか……」
そして、複雑な思いの一部は、入れ替え戦の相手がニュルンベルクだったからだ。ニュルンベルクは長谷部が在籍した2013-14シーズンに、2部に降格したチームだ。
「試合が終わった今だから少し感傷的といいますか、そういう部分は出てきますね……。2年前降格したときにニュルンベルクにいた人間としては、他の選手みたいに喜べないというか……。この2年間、ニュルンベルクを出てから心の中にはずっと想うところがあったので。試合でそういうものを出すのはプロとしてあってはならないことで、この2試合はフランクフルトのために戦いました。だけど試合が終わって、こういう結果になった今は、まあ少なからず思うところはありますね」
およそ5年半にわたり在籍したヴォルフスブルクを離れて、2013年の9月に移籍を決めたのは、ニュルンベルクが自分のことを評価してくれたから。それにもかかわらず、2部降格という結果に終わった悔いは、今も長谷部の胸の中にある。
今シーズンはリーグ戦200試合出場を達成したし、コバチ監督のもとでは本来のボランチのポジションで起用され、古巣ニュルンベルクと来季の1部に残るための最後の枠をめぐって戦った。
そうした自分の歴史と向き合いながら、そして長い時間苦しみながら、戦ったシーズンがおわった。そして、それだけ色々なものと向き合えるのは、長谷部がドイツにきて第一線で活躍してきたから。そして、その経験がまた、これからの長谷部の成長の糧になっていくのだ。