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レスターと岡崎慎司が成し遂げた偉業。
サッカーの構造そのものを覆した?

posted2016/05/06 17:30

 
レスターと岡崎慎司が成し遂げた偉業。サッカーの構造そのものを覆した?<Number Web> photograph by AFLO

レスターの臨時収入は200億円を超えるとも言われ、選手全員にオーナーからベンツがプレゼントされた。

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田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

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「歴史的偉業」、「世紀の大番狂わせ」、「岡崎、プレミアの優勝メンバーへ」。

 テレビ、新聞、雑誌、ウェッブサイト。どのメディアでも、レスター・シティの優勝と岡崎慎司が今も大々的に取り上げられている。

 興奮する気持ちはよく理解できる。1992年のプレミアリーグ創設以来、リバプールでさえも為し遂げられていない優勝を、あのレスターが達成したのである。ましてや日本人選手が中軸にいたとなれば、熱狂するなというほうが不自然だろう。

 ただし個人的には、レスターの優勝が持つ歴史的な意義は、日本で理解されている以上に大きい気がしている。

 最初の要因は、マネーの問題だ。

 レスターの優勝に関しては、選手の補強予算の少なさから「小兵が巨人を倒した」という説明がよくなされる。もちろん間違いではないが、この説明では全体の文脈を把握しきれない。今シーズンのレスターが覆したのは、個々のビッグクラブというよりも、むしろビッグクラブを軸とした欧州サッカー界の「富の構造」だからだ。

 ヨーロッパのサッカー界は、1990年代後半以降、未曾有の発展を遂げてきた。なかでもプレミアの羽振りの良さは群を抜いている。スイスの会計監査法人、デロイト社の試算によれば、2013-14シーズンの総収入は約38億9800万ユーロ。2位のブンデスリーガでさえ約22億7500万ユーロである。この数字は、テレビの放映権契約が新たに発効する来シーズンから、さらに跳ね上がる。

 だが膨れ上がる富は、プレミアリーグ全体の底上げをもたらすというよりは、持てる者と持たざる者の格差を増大させる方向で働いてきた。日本において「セレブ」、「リア充」といった言葉が当たり前のように使われるようになり、「勝ち組」と「負け組」の差が歴然としてきたようにだ。

金の力が順位に反映される傾向が顕著に。

 知人のサイモン・クーパーは、パリ市内のカフェで、伏し目がちにこんなことを語ってくれたことがある。

「そう、サッカー界が特別なんじゃなくて、世の中全体の変化が、わかりやすい形で現れている分野の一つが、サッカー界だと捉えた方がいいと思う。

 この傾向はどんどん強くなってきた。現にどの国のリーグでも、金の力が順位に直接反映される傾向が、明らかに強まってきている。

 あまりにロマンチックじゃない、実も蓋もないと嘆く人たちの気持ちも分からなくもないけど、これが僕たちの住んでいる世界の現実なんだよ」

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