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金哲彦が男子マラソン選考を考える。
「リオデジャネイロでしっかり勝負を」
posted2016/03/12 10:40
text by
金哲彦Tetsuhiko Kin
photograph by
Atsushi Hashimoto
びわ湖毎日マラソンが終わり、リオデジャネイロオリンピック・男子マラソン選考レースの結果がすべて出揃いました。客観的な評価は後にして、3つのなかでどのレースが一番印象深かったかと聞かれれば、やはり「びわ湖」な気がします。
レース終盤、腹痛のため右手で脇腹を押さえながらも、果敢にペースアップする北島寿典選手の走りには、多くの視聴者が驚いたと思います。
痛みをこらえながら頑張る姿が、感動的なシーンを生みました。そしてもう一方で、片腕を振らなくてもペースを上げられるんだ? というランナー的な疑問も湧き起こったのではないでしょうか。
確かに、気迫のこもった北島選手の走りは素晴らしかった。そして、少し不思議でした。フルマラソンの後半でフラフラになっているはずなのに、片手をお腹に当てても身体がぶれない。ぶれるどころか、ストライドがグンと伸びて加速しました。
それまで余裕の表情で日本人トップを走っていた石川末廣選手は、北島選手に追いつかれてから顔色が一変。「まさか」というような苦しい表情に変わったのが印象的でしたね。まさに、「勝負は最後まで分からない」の典型例だったと思います。
痛みが脚や下腹部でなかったことが幸いした。
北島選手はフィニッシュ後のインタビューで、「最後まで腹痛はあったけど頑張った」とコメントしています。そのコメントのなかに、実は重要なキーワードがありました。「痛かったけど、身体に余裕はあった」というものです。
つまり、お腹に痛みはあったけどスタミナ切れにはならず、余力十分だったということ。もし痛みが脚だったらこうはいかなかったでしょう。あるいは痛みが、いわゆる下腹部の“差し込み”だった場合もしかり。
“差し込み”は腸の活動が活発になった状態なので、下腹部に力が入らずにやはり失速してしまいます。程度によってはトイレに駆け込むハプニングにも……。
ではいったい、北島選手の痛みはなんだったのか? 私は2つの可能性があると推測しています。