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ホッケーの代表監督を引き抜いた!?
独サッカー協会の仰天プロジェクト。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byGetty Images
posted2015/12/06 10:30
ロンドン五輪でホッケーの男子代表を率いて金メダルを獲得した名将のヴァイゼがドイツサッカー協会入りした。
他ジャンルの名将を強奪したドイツサッカー協会。
今年11月、ドイツスポーツ界を揺るがす人事が発表された。DFBがドイツホッケー協会から世界一の名将、マルクス・ヴァイゼを引き抜いたのだ(ここでいうホッケーとは、芝の上で行うフィールドホッケーのこと。11人対11人で行う)。
ヴァイゼは五輪の申し子である。
2004年アテネ五輪でホッケー女子ドイツ代表を率いて優勝し、2008年北京五輪と2012年ロンドン五輪ではホッケー男子ドイツ代表を率いて頂点に立った。つまり3大会連続の金メダルだ。ホッケーの男女両方で五輪の金を手にしたのはヴァイゼが初である。
当然、ドイツホッケー協会としてはリオ五輪での金を期待しており、準備を進めていたが、そこに突然DFBが割り込んできた。結局、ヴァイゼの希望が尊重され、ドイツホッケー協会は契約解除を認めざるをえなかった。
ヴァイゼは“移籍”の理由を、DFBの公式サイトでこう説明した。
「今、私は52歳。想像もしなかったオファーを受け、自分に問うた。このまま年金をもらうまで、ホッケーの監督を続けていいのかと。そして決断したんだ」
ホッケーにはたくさんの細かい崩し方が存在する。
では、サッカーの世界で何を行うのか。ヴァイゼに与えられるのは、DFBアカデミーの「コンセプト成長リーダー」という肩書きだ。育成に関するコンセプトを決め、発展させていく役割である。
「ホッケーとサッカーの違いは、ヘディングが楽しいかどうかだ。それは冗談として、オフサイドがないといったルールの違いはあるが、プレッシングや早い切り替えなど、同じ原理原則がある。だからこれまでも、私は監督目線でサッカーの試合を見てきた」
サッカーの試合で一方が後ろに引いたとき、攻撃側にどんなプランがあるかを考えるのが好きだったという。
「相手が深く引いたら、ただサイドチェンジを繰り返してもダメだ。数的有利なエリアを作って、相手のバランスを崩さなければならない。ホッケーでは、たくさんの細かい崩し方が存在する。だが大事なのは、戦術だけでは成り立たないということだ。相手が何を考えているか、相手にとって自分たちがどう見えているか。私は常に選手たちに、そういう戦略的思考を求めてきた」