プロ野球亭日乗BACK NUMBER
日本シリーズは“パ式”対決だった。
力負けのヤクルトが選ぶべき道は?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2015/10/30 18:20
新人監督対決で敗れた真中満監督。来年に向けてすでに構想を練り始めていることだろう。
1点よりも、大量得点を狙うスタイル。
無死二塁なら、次に1死三塁というシチュエーションを作りにいくのがいまのセ・リーグの野球の主流である。この試合なら、クリーンアップに回る4回以外はバントで送るか、少なくとも右打ちを徹底して走者を三塁に進め、犠飛や内野ゴロの間に1点を奪う。そういう1点ずつを積み重ねる作戦が、セ・リーグでは当たり前のように選択される。
ところが無死二塁でもソフトバンクの打者は右打ちのそぶりも見せずに強振を繰り返す。3つのアウトに間に適時打が、あわよくば本塁打が飛び出て2点、3点を奪うチャンスに膨らむことを目指す。そのチャンスに賭けるのがパ・リーグの、ソフトバンクの野球なのである。
そうしてこのひたすら前に進む野球を支えているのが、投打にわたる圧倒的な戦力だった。
このシリーズでは4番の内川聖一を骨折で開幕直前に欠き、打線の軸の柳田悠岐の調子ももう一つ上がってこなかった。それでも第1戦では5番の松田宣浩が先制本塁打を放ち、2戦目以降は内川の代役4番に座った李が2発8打点の活躍を見せてチームを引っ張った。
投げても、開幕を託された4年目の武田翔太が完投勝ちを収めると、2戦目にはバンデンハークと抑えのエースのサファテで強力ヤクルト打線を完封。4、5戦も攝津正、スタンリッジという先発陣が力を出し切った。こういう個の突出した力があるからこそ、前に進み続ける野球が日本一へ開花していったとも言えるわけだ。
ヤクルトも個の存在感のあるチームだったが……。
ただヤクルトも、セ・リーグの中では最もパ・リーグに近い野球をするチームだったということができるかもしれない。
トリプルスリーで本塁打王と盗塁王に輝いた山田哲人に、首位打者の川端慎吾、打点王と畠山和洋とリーグで突出した個の存在感を持つチームだった。真中監督の采配もパ・リーグ的で、送りバントより自由に打たせるスタイルでチャンスを広げ、選手の力を引き出し、前年最下位からのリーグ制覇という快挙につなげていったわけである。
そのヤクルトの力が出たのが第3戦だった。
山田がシリーズ史上初となる1試合3本塁打を放ち、その力でソフトバンクの勢いを押し返して勝利をもぎ取った。ただトータルで見れば、ヤクルトが同じ戦いをしていたのでは、本家・ソフトバンクにかなう道理はやはりなかったということかもしれない。