プロ野球亭日乗BACK NUMBER
高橋由伸新監督が継承すべきもの。
原巨人が体現した「勝つ組織」とは。
posted2015/10/31 10:40
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Hideki Sugiyama
頭にこびりついて離れない場面がある。
セ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)、ファイナルステージの第3戦。2点を追う9回の巨人の攻撃だった。
マウンドはヤクルトの守護神・バーネット。その右腕から3番の坂本勇人が右前安打を放ち、続く阿部慎之助が四球で歩いた無死一、二塁。打席には5番の長野久義が入った。
シーズン中ならほぼ100%、送りバントの場面だった。ところが巨人ベンチの原辰徳監督は強行策に打って出た。
結果は遊ゴロ併殺打で、巨人は敗れた。
これでシリーズが終わったわけではない。まだ王手をかけられたに過ぎない敗北だったが、実質的にはここで巨人のCS敗退が決まったと言える。そう感じた場面だった。
なぜ、あそこで送りバントではなかったのか? なぜあそこで長野に打たせたのか?
「他のバッターなら(バントも)あったかもしれないけど、クリーンアップだったし、あそこは攻撃的にいこうということでしたね」
試合後のぶら下がり取材でそのことを問うた時の、原監督の答えだった。
最後に「理想の野球」をやろうとした?
ここからは勝手な想像である。
原監督は最後に、自分の理想の野球をやろうとしたのではないか、という気がする。
「一番の理想はベンチが何もしない野球だな」
だいぶ昔のことだが、どういう野球が理想かとたずねたときの答えだった。監督の仕事には大きく分けて2つある、とそのとき原監督は説明した。
まず選手を集め、鍛えて、チームを作り上げること。そして2つ目がそのチームを動かして勝つことである。
「アマチュア野球は最初の仕事が大事になる。でもプロは2番目の仕事が一番のミッションになる。だからベンチが何もしないでも勝てるチームが理想だよ。そういうチームを作り上げられれば、それに越したことはないわけだからね」