プロ野球PRESSBACK NUMBER
ブームを裏切り今季もBクラス目前。
広島カープに足りなかったのは何か?
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKYODO
posted2015/09/30 11:05
笛吹けど踊らず――どの球場でも盛り上がったスタンドのファン熱気とは対照的に、ベンチの緒方監督は冴えない表情が増えていった。
三村イズムを誰よりも濃く受け継いだ男。
誰よりもその三村イズムを受け継いでいるのは、緒方孝市監督ではないか。
現役時代に指導を受け、監督就任時にも「理想は三村さん」と口にしていた。選手にも「強い気持ち」「生命力がある者が生き残る」など、さまざまな精神論を口にしてきた。
象徴的だったのは、3月27日に行なわれた13年ぶりの地元開幕戦だ。
練習前にできた円陣で緒方監督は自らスターティングメンバーを読み上げ、叫んだ。
「絶対勝つぞ! 頼んだぞ! 勝つぞ!」
遠くからでもその声は聞こえ、記者も熱いものを感じた。
感情が表に出やすい情熱家は、シーズンが始まれば自分を抑えるように、投手コーチやバッテリーコーチを信頼し、選手を信じた。
笛吹けど踊らずだったわけでもない。首やひざに痛みを抱えながらプレーを続ける菊池涼介は、内野安打をもぎ取ろうと一塁へヘッドスライディングで滑り込む。
ベテラン新井貴浩は走攻守いずれも見ている者に必死さが伝わる。助っ人外国人のエルドレッドも平凡な内野ゴロでも一塁へ全力疾走する。精神的強さが足りないようには見えない。
現役時代と変わったメンタルコントロールの苦労。
シーズン終盤、緒方監督は「昔は“夕日に向かって走る”みたいなことがあったけど、今では無理だろうな」と笑った。
自身の現役時代から大きく変わった今、指導者として選手のメンタルコントロールの苦労が滲む。
緒方監督は現役時代から、ストイックに自らを追い込んできた。監督になっても誰よりも早くマツダスタジアムを訪れ、スコアラーからの資料に目を通す。試合後には他球団の試合映像を確認するなど、現役時代と変わらぬストイックさだ。
ただ自分のやり方を押しつけるようなことはしない。時代が違うことは分かっている。
「あまり厳しくしても選手が萎縮してしまう。だから基本的に何も言わずにいた」
ただ、反対に我慢する姿が、選手へ緊張感として伝わった。若い選手が多いチームなだけにプレーに影響する部分も大きかっただろう。