マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
甲子園出場の、無名のベストナイン。
この夏は清宮、オコエだけじゃない!
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/08/05 11:40
沖縄大会決勝で、糸満相手に完投した興南の比屋根雅也投手。球速はそこまでではないが、角度のあるボールは打者には打ちづらいことこの上ないだろう。
投手は沖縄興南・比屋根のクロスファイアー。
例によって、投手から探ってみよう。
第6日目・第3試合、興南高の2年生左腕・比屋根雅也(175cm67kg・左投左打)に注目していただきたい。
もっと“すごい投手”なら、今大会ほかにもいると思う。しかしこの投手、とても「興味深い投手」という意味で推挙したい。
そのフォームで、どうして右打者の足元、胸元をクロスファイアーで突けるのか?
右足を上げて体をねじって背中を打者に向ける「トルネード」なら、興南高の先輩・島袋洋奨(現・ソフトバンク)がお手のものだったが、この比屋根投手はそこからスパイク2足分、いや3足分ほどもインステップして投げる。
そこまで大きく一塁側に踏み込むから、腕の振りの角度はスリークォーターからサイドハンドに近い。一見すれば右打者の外角にシュート回転のボールを投げるのに適したフォームなのに、そこからコマのようにクルッと回転して右打者のふところをえぐる。
子供がお手本にしてよいフォームでは決してない。逆に、どうして“それ”が出来るのか、そのことを考えたい。
体がグニャグニャに柔らかいから、沖縄の選手特有の身体能力……、そんな、どこかで聞いたようなことで片づけてはつまらない。なにかもっと、今まで誰も考えつかなかった革命的な体のメカニズムに気がつくかもしれない。
聖光学院・佐藤のディフェンスは本当にすばらしい。
第7日目・第1試合の東海大相模vs.聖光学院の一戦は、事実上の<決勝戦>だと筆者は考えている。両校ともに甲子園の常連だが、それ以上に今年のチームの戦力は充実している。
注目の東海大相模の強力投手陣?
いやいや、彼らの剛球はいやでも目に飛び込んでくる。注目してほしいのは、聖光学院・佐藤都志也捕手(3年・180cm71kg・右投左打)のほうだ。
この捕手のディフェンスは本当にすばらしい。優秀な遊撃手がマスクをかぶっている、そんな捕手である。
バッテリーを組む投手が速いテンポを望めば、その通りの敏捷なボールとサインのやりとりで打者に考える暇を与えずどんどん攻めていく。逆に、打者をじらしながら慎重に攻めねばならない場面では、相手ベンチをじっと見つめることで時間を作り、用心深くカウントを重ねていく。
タテのスライダーのショートバウンドへの反応も抜群。上体をクッションに姿勢を止めたかと思うと、ミットで吸収するようにショートバウンドを捕って、変化球を読んでスタートをきった一塁走者を、ベース上に伸びていく送球で二塁で刺す。
今はスリムなユニフォーム姿だが、レガース、プロテクターの捕手装束(しょうぞく)が似合うたくましい線になった時、おそらく彼はプロでマスクをかぶっているはずだ。