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新星サニブラウンに世界1位が驚愕!
ボルトに似た「お祭り男」の夢は?
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAFLO
posted2015/07/30 10:50
もちろん引き締まってはいるが、シニア選手に比べればサニブラウン・アブデル・ハキームの体はまだまだ細い。ここに筋肉がついてきたとき、どれだけの速さで走るのだろうか。
リレー出場を本人の選択に委ねる決断。
山村の考え方は常に一貫している。6月中旬に行われたインターハイ南関東大会で、サニブラウンは100m、200m、400mリレーに出場した。3種目でインターハイ出場を決めた翌日、1600mリレーの決勝を控えた選手たちが山村に直談判する。「ハキームの力を借りたい」と。
インターハイ出場がかかった大事なレース。この場合、コーチのほとんどが迷わずにサニブラウンを起用するだろう。
しかし山村は違った。サニブラウン自身にその決断を委ねた。自分の体と相談して決めなさい、と。
結果的にサニブラウンは2走として出場し、チームは5位入賞、そしてインターハイ出場を決めている。ここで重要なのは強制ではなく、サニブラウン自身が決断して走った点だ。
インターハイなどに行くと、体の至る所にテーピングを施した高校生をみかけることがある。多少足を痛めていても、チームの得点がかかっていれば無理をしてでも出場する、せざるを得ない。そんな光景をたくさん目にする。山村はそういった負荷を、若い選手にかけたくないと考えている。
今夏のインターハイも、同様の考え方で臨む。世界陸上で200mに出場する可能性もあるため、無理はさせない方針だ。
「ハキームは6カ年計画で育てますから焦りません」
2人の二人三脚は今年で5年目に入る。
こんなエピソードがある。中学時代にとある大会で、サニブラウンは決勝に残ることができなかった。その際、山村は世界ユースの引率でフランスに行っており、サニブラウンは半べそで山村に結果報告の電話をかけた。時差の関係もあり会話はすぐに終わったが、追って山村はサニブラウンの母親にこんなメールを送っている。
「ハキームは6カ年計画で育てますから焦りません。一緒に世界中に遠征にいくのが楽しみです」
試合毎に一喜一憂し、目先の試合にとらわれがちだったサニブラウンと家族の考え方を変えた言葉だった。そして日本から遠くはなれた南米コロンビアの地で、2人はまず一発目の花火をあげた。