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新星サニブラウンに世界1位が驚愕!
ボルトに似た「お祭り男」の夢は?
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAFLO
posted2015/07/30 10:50
もちろん引き締まってはいるが、シニア選手に比べればサニブラウン・アブデル・ハキームの体はまだまだ細い。ここに筋肉がついてきたとき、どれだけの速さで走るのだろうか。
ボルト同様、大舞台で能力を発揮する「お祭り男」。
身長187cm、体重74kgという恵まれた体格も、サニブラウンの大きな武器の一つだ。加速部分をすぎてからの大きなストライドを生かした走りは、シニア選手をも圧倒する。平均ストライドは243cmと、全盛期の朝原宣治とほぼ互角だ。まだ筋力がついていないため、ピッチ数ではシニア選手に劣るが、それは今後成長の可能性を秘めているとも言える。
サニブラウンは、日本陸連が『東京五輪でメダルや入賞を期待できる選手』として指定した『ダイヤモンドアスリート』として定期的に体力測定などを受けているが、実はその計測値はさほど高くない。おそらくボルト同様、「お祭り男」的な性格の持ち主で、胸がドキドキするような大舞台で能力をいかんなく発揮できるタイプなのだろう。
昨年までの自己ベストは、100mが10秒45、200mが21秒09という記録だった。しかし今季は春先から走るたびに記録を更新。6月下旬に行われた日本選手権では年長の選手たちと堂々と渡り合い、100mと200mでそれぞれ2位に入賞。一気に飛躍を遂げた。日本選手権、そして世界ユースと1レースごとに経験値を高めている。
サニブラウンが世界ユースで出した200m20秒34(-0.4)は、今季のシニアランキングに当てはめると、49位に該当する。
ボルトがシニア代表デビューをしたのは2004年アテネ五輪だったが、18歳のボルトは21秒05で予選落ちというほろ苦い結果に終わっている。16歳5カ月で出場する北京世界陸上でサニブラウンがどんな走りをするのか、世界中の陸上関係者が楽しみにしている。
「今回の結果は確かに素晴らしいが、勝負はこれからだ。いい感じで成長していってほしい」
前述のガトリンを含め世界の陸上関係者の多くが、サニブラウンが東京五輪まで息切れせずにいい成長曲線を描いてくれることを願っている。
「最大の目標は東京五輪で金メダルをとることです」
「憧れている選手はいますか?」
今まで何度となく同じ質問をされているのだろうか。サニブラウンは困ったなという表情をしながら、ちょっと面倒くさそうに「そういう人はいないです」と応じた。
ガーナ人の父親と日本人の母親から、「自分らしく生きろ」と言われて育ってきたのだろう。誰かがすでに歩いた道ではなく、自分の道を進んでいくんだ、そう言っているようにも聞こえた。
「最大の目標は東京五輪でメダルをとることです」
ちょっとはにかみながら、でもしっかりと前を向いて答えた。視線の先には東京五輪がある。