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幕張の空にエアレースがやってくる。
唯一の日本人・室屋義秀の「総力戦」。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byJoerg.Mitter/Red Bull Content Pool
posted2015/05/03 10:30
空中での最高時速は350kmを超えるエアレース。今年はBSなどで全レースが放送される予定で、より多くの人が目にすることだろう。
昨年と同じアプローチで満足しているわけにはいかない。
――しかし他のチームも、あなたやポール・ボノムのチームを参考にして、データ分析のスペシャリストなどを雇うようになりました。普通に考えれば、今シーズンはアドバンテージを維持するのが難しくなるはずです。
「君の指摘は極めて正しい。実際、他のチームの中にはうちと非常に似た体制を組むようになったところもある。データ解析やコース分析のスキルに関しては、こちらを上回るチームさえ出てくるだろう。だから冬のシーズンオフには、アドバンテージを維持していくために、新たなパーツのテストなどを精力的にこなしたんだ」
――その意味で、今シーズンのエアレースは、一種の「総力戦(トータル・ウォー)」としての色彩を強めた印象を受けますが。
「私もそう思う。ましてや今年はパイロットが2名増えて14名になったし、レースのフォーマットが変更されて、最後の4強を決めるまでの戦いがデュアルレース形式(1対1)で行なわれるようにもなった。昨年と同じアプローチで満足してしまうようなことがあれば、すぐにライバルチームに追い抜かれてしまうのは目に見えている。そういう認識はチームの誰もが持っているよ」
唯一の日本人・室屋義秀が象徴する「総力戦の時代」。
このような「総力戦の時代」の到来を象徴しているのが、日本人唯一のパイロットとして大会に参戦している室屋義秀である。
昨年、室屋のチームはコーディネーターのロバート・フライ、メカニックの西村隆、そして室屋自身の3名から構成されていたが、今年はデータを分析し、コースの攻略方法などを策定するベンジャミン・フリーラブという米国人のスペシャリストが加入。ベンジャミンが収集したデータをさらに分析するスタッフまで加えれば、実質的に5人のスタッフでレースに臨めるようになった。室屋は語る。
「ベンジャミンはエアロバティック(曲技飛行)のパイロットで、教官としても世界一くらい長い時間を飛んでいる。(レースのことを)ほぼなんでも知っている人間です。
メインの役割は、一番速く飛べるコースを見つけるためのプログラムを組んだり、様々な計算をしたりすることですが、僕が飛んだ後は実際のデータと計算上のデータを摺り合わせながら、『どの場所でライン取りを修正していくか』という指示を具体的に出してくれる。
これまでそういう作業は、徹夜でビデオを見たりしながら自分でやっていました。でもベンジャミンが来てくれたおかげで、タイムが届かないのはエンジンが悪いのか、あるいは自分のライン取りに原因があるのかといったことが完全にデータでわかるようになった。彼の存在は、ものすごく力強いですね」
開幕戦では表彰台こそ逃したものの、ベンジャミンの加入に手応えを感じていることは、レース後の会見からもうかがえた。