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幕張の空にエアレースがやってくる。
唯一の日本人・室屋義秀の「総力戦」。
posted2015/05/03 10:30
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph by
Joerg.Mitter/Red Bull Content Pool
「去年のレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップは、3年間のブランクを経た後の『再離陸』としての意味合いが強かった。
だが今年は違う。競技自体のレベル、予測がつかない競り合いの激しさ、世界最速のモータースポーツシリーズとしての魅力、すべてがスケールアップしている。
それは一旦離陸した飛行機が、どんどんスピードを増しながら高度を上げていくのに似ていると思う。エアレースは絶えず進化し続けていくんだよ」
冷房の効いたアブダビのプレスルーム。こちらが差し出した手を固く握り返しながら、エアレースのディレクターを務めるジム・ディマッテオが断言する。
深い鳶色の瞳、アイロンのかかった純白のシャツ、空軍のパイロット出身らしい、こわばった手の感触はまったく同じでも、その口調は1年前よりもはるかに確信に満ちたものになっていた。
彼の言葉が正しいことは、2015年の開幕戦となるアブダビ大会の内容からも窺える。勝利を飾ったのは昨年と同じポール・ボノムだが、今年は予選の時点から番狂わせが続出。昨シーズン、総合優勝を飾ったナイジェル・ラムはベスト8で沈み、4強にはオーストラリア出身のマット・ホールが勝ち上がった。
昨年の覇者は「総合力」の重要性を強調した。
波乱含みの展開をもたらした大きな要因の一つとしては、各チームの総合力が上がったことが挙げられる。レースに先立って実施したインタビューでは、予想外の敗退を喫したナイジェル・ラム自身が、予言めいたことを口にしていた。
――去年のあなたは総合優勝を飾っています。勝因はどこにあるとお考えですか?
「コンスタントに結果を出し続けたことに尽きると思う。実際、シーズンの最初の2戦はあまり芳しくなかったが、そこから6戦連続で表彰台に上がり、着実に勝ち点を稼ぐことができたわけだからね」
――驚異的な巻き返しは、いかにして可能になったのでしょう?
「チームとして総合力、パッケージとしての完成度の高さがものをいったんだ。機体の性能、セッティングのノウハウ、エンジニアリングのスキル、スケジューリングまでをも含めたマネージメント能力、我々はすべての面で優っていたし、シーズン中盤のポーランド戦からは、私の息子がコースやフライトのデータ分析をアシストしてくれるようになった。こういうスタッフがいると、チームとして目指すべき方向性がより明らかになるし、余裕と自信を持ってレースに臨めるようになる」