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幕張の空にエアレースがやってくる。
唯一の日本人・室屋義秀の「総力戦」。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byJoerg.Mitter/Red Bull Content Pool
posted2015/05/03 10:30
空中での最高時速は350kmを超えるエアレース。今年はBSなどで全レースが放送される予定で、より多くの人が目にすることだろう。
日本初のエアレースは、幕張の特別コース。
これも5月16日から千葉の幕張海浜公園で開催される、日本初のレッドブル・エアレースに向けた試みの一環であることは言うまでもない。室屋は証言している。
「日本戦の開催があることが弾みとなって、導入に漕ぎ着けました。 日本戦がなければ、(導入は)できなかったかもしれないです」
来る日本大会、室屋にとって勝負の鍵は何か。
テクニカルな観点から述べれば、まず新たな機体をどこまで仕上げられるかがポイントになるだろう。いかにポテンシャルが高くとも、実戦で使用していくためには膨大なデータ収集と調整が不可欠だ。むろん室屋は、この瞬間にも寸暇を惜しんでテストに明け暮れているが、実質的にはぶっつけ本番に近い形でレースに臨む形になる。
2つ目のポイントは、幕張海浜公園の特設コースをどう攻略するかである。
室屋は学生時代を千葉県で過ごした。当然、風向きや天気の崩れ方を誰よりも熟知している上に、幕張海浜公園でのフライト経験も持つが、コース自体は彼にとっても「初見」となる。その意味では、必ずしも地の利があるとばかりは言い切れない。
しかしレースエンジニアのベンジャミンは、初見のコースだという事実こそが追い風になると強調した。
「そう。ヨシにとっても、幕張にトラックを設置して飛ぶのは初めてになる。でも僕は、だからこそ勝機があると考えているんだ。彼はものすごく頭の回転が速いパイロットだし、コースの特性を瞬時に把握したり、コンディションの変化に対応していく能力は超一流のものを持っている。誰にとっても未知のコースになるという状況は、ヨシにとって必ずプラスに働くはずだよ」
自国開催は「ホーム・ディスアドバンテージ」が大きい?
ただし、これらのテクニカルな要素以上に重要なのは、母国でレースが開催される影響かもしれない。2009年と2010年には2年連続で総合優勝するなど、最高の戦績と経歴を誇るポール・ボノムは、室屋に貴重なアドバイスを送っている。
「ヨシにとっては初の母国大会だし、日本におけるエアレースのアンバサダーとして心に期するものは大きいだろう。
しかし、パイロットにはものすごいプレッシャーがかかってくる。地元でのレースには、自分のハンガー(格納庫)からレース会場まで時間をかけずに移動できるという強みがあるが、それ以外の部分では『ホーム・アドバンテージ』など存在しないと言ってもいい。逆に『ホーム・ディスアドバンテージ』が生まれるんだ。
レース期間中、地元のメディアは自分の一挙手一投足を常に注目するし、友人や関係者、ファンがひっきりなしに自分のところにやってくることにもなる。
だから僕の場合、アスコット競馬場で行なわれたイギリス大会では、ひたすら身を隠し続けたんだ。レースに集中するためにね。僕はヨシにも同じことを勧めたい」