真のトップパイロットになるための「壁」。

　昨年のイギリス大会で、ボノムと上位を分け合ったナイジェル・ラムが言葉を継ぐ。

「ヨシに優勝を狙える実力があるのは間違いない。現に去年は機体のハンディを克服して見事に表彰台にも上ったし、今年はデータアナリストも加わっている。

　むしろ成否を分けるのは、ホームレースという特殊な環境の中で、自分の力を発揮できるかどうかだと思う。私がアスコットで心がけたのも、周囲の雑音に邪魔されずに、自分の心を研ぎすまされた状態に持っていくことだった。

　でも、これはヨシが真のトップパイロットになるために、乗り越えなければならない壁でもあるんだ。さっき君が口にした『総力戦』という表現を借りるなら、ヨシはマシンのセッティングや自分自身のフライトだけでなく、データ分析やスケジュール調整、体調の管理、コンセントレーションの持っていき方に至るまで、すべての勝負所を押さえていく必要がある。でもヨシならできるはずだ。私はそう信じている」

日本中の期待を一身に背負い、いざ幕張の上空へ。

　日本大会の開幕は、間近に迫っている。室屋を追い続けてきた人間としては健闘を願うばかりだが、現時点でも確実に指摘できることが2つある。

　室屋自身が、ついに実現した母国大会に全身全霊を賭けて臨もうとしていること、そしてチーム室屋が、今年のレッドブル・エアレースを象徴する存在になっている点だ。

「日本でレースをやろうという思いは、僕だけじゃなくて、長きにわたってチームを支えてきてくれたスタッフや、関係者全員が強く抱いてきたものです。

　これまでは、なかなかハードルが高くて難しかったわけですが、今回はそれをついに乗り越えることができたし、（日本中の人からエアレースを）見てもらえるようになる。もちろん気合いは入りますね。（気持ちが）オーバーヒートしないように、注意しなければなりませんが」

　5月16日、室屋は日本中の期待を一身に背負って幕張の上空に舞い上がる。室屋の勇姿、そして室屋が体現する「総力戦」としての新たなるレッドブル・エアレースに注目されたい。