マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
判官贔屓の観客が作る強者の重圧。
松山東の1勝を生んだ“残酷な心情”。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/03/27 12:00
二松学舎大付を破った松山東は、28日の第3試合で東海大四と対戦する。観客が再び松山東に味方する可能性は高いが、再びの下克上は起こるのだろうか。
コールドを目論んだ側が、逆にコールド負け。
もうだいぶ前だが、夏の予選でこんな場面を目撃したことがある。
どっからどう考えたって勝つに決まってるだろうという強豪が、初回に四球で出た走者をヒットエンドランで進めようとした。
おそらく、10-0の5回コールド。勝手にそんなイメージを描いて、初回からビッグイニングで一気呵成に。そうした目論見だったのだろう。つまり、相手をナメていた。
その打球がジャストミートのライナーになって、二塁ベースカバーに入った遊撃手の正面に飛んだからたまらない。目の前に駆け込んできた一塁走者を飛んで火に入る夏の虫とタッチアウトにすると、あっという間にダブルプレーだ。
これで完全に「流れ」が相手に移った。
野球の流れには、こんな黄金則がある。
「格上のチームが意味のわからない選手の交代や攻め方をすると、試合の流れが相手に移り、展開は必ず荒れる」
その後はもう、何をやっても裏目裏目。人工芝のグランドではありえないイレギュラーが出たり、逆に「強いほう」が5回コールドで粉砕されてしまった。
「弱者からのプレッシャー」が強者を襲う。
勝ち方にこだわると、つまりいい格好をしようとすると、野球では必ず流れに逆らうことになる。
送りバントでよい場面で欲張って盗塁、格好つけて一、三塁を作ろうとしてエンドラン。
流れを司っているのは「野球の神様」であるから、流れに逆らうということは神様に逆らうことであり、往々にして神様を怒らせてその作戦は失敗し、結果として番狂わせが起こる。
そんなシーンをこれまで何度も見てきた。もしかしたらそうした強者の側を襲う“雑念”は、誰にも見えない「弱者からのプレッシャー」なのかもしれない。
捨て身になった相手ほど怖いものはない。二松学舎・大江竜聖に16三振を奪われながら、それでも「来た!」と思ったボールには振って振って振りまくり、打線の上位5人だけで打った7本の安打と、下位打線が初球で決めたスクイズの5点で勝ち上がった松山東。
お叱りをいただくことを覚悟でこういう表現をすれば、ほんとのところ夏の予選には、球場に「負けに来る」チームがあるが、甲子園球場に負けるためにやってくるチームは1つもない。
この“当たり前”のことを、背中に鳥肌をたてながら改めて思い知らされたセンバツの春の午後であった。