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なぜ錦織圭の目に濃い“くま”が?
3連覇の陰で進んでいた「強化計画」。
posted2015/02/17 11:20
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
AFLO
ATPツアーのメンフィスオープン(米国)で、錦織圭が通算8度目のツアー優勝、自身初の同一大会3連覇を達成した。
コート上でのインタビューで「3連覇は大会史上初ですよ」と水を向けられた錦織は「ここに引っ越したくなりますね」と地元メンフィスの観客に向けたリップサービス。自然体の受け答えには、トッププレーヤーの風格も感じられた。
しかしテレビ画面は同時に、錦織がひどく疲労していることを伝えていた。目の下には、はっきりと“くま”が見える。表情の乏しさが、エネルギーの残量がゼロに近いことを想像させた。
ケビン・アンダーソン(南アフリカ)との決勝こそ6-4、6-4の快勝だったが、初戦の2回戦から準決勝までの3試合はいずれもフルセット、第1セットを落としてからの逆転勝ちだった。球足の速いコートサーフェスと、軽量でよく飛ぶボールにも悩まされた。なかなか調子が上がらない中、それでも錦織は体力と知力を総動員して4試合を乗り切った。
最も苦しんだのが、5-7、7-6、7-6の大熱戦となり、今大会最長の2時間41分を要したサム・クエリー(米国)との準決勝だろう。
錦織の“負けにくさ”を支える引き出し。
とにかくリターンが返らなかった。3セットでクエリーが記録したサービスエースは27本。相手のファーストサーブ時の錦織の得点率は、わずか18%。相手のセカンドサーブでも、好調時を大きく下回る48%しか得点できなかった。
得意のグラウンドストローク戦でも、フォアハンドの精度が低く、本来決定打となる場面で相手の反撃を許した。精神的に“もやもや”が続いたからなのか、持ち味のひとつである発想力や創造性も切れ味が鈍り、ドロップショットを読まれて逆襲を許す場面もあった。
試合後、錦織が心の内を明かした。
「負けるかもしれないと何度も思った」
しかし、それでもなんとかしてしまうのが世界5位の実力なのか。ストローク戦では、唯一好調だったバックハンドのクロスを命綱に、慎重に試合を展開。サービスゲームでは緩急とコースや球種の組み立てを駆使し、時速160km台のスライスサーブでエースを奪い、緩い“変化球”で相手の凡ミスを誘った。
攻撃の精度が上がらなければ守備の手堅さで、リターンが不発ならサービスゲームでなんとか食い下がる。今の錦織が“負けにくい”選手なのは、こういうプレーができるからだ。