錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
「あれは圭のテニスじゃなかった」
松岡が錦織圭に見る世界5位の責任。
posted2015/02/18 10:50
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
AFLO SPORT
テニスツアーは南半球を離れ、錦織は早くも次の舞台となった米国テネシー州メンフィスで大会史上初の3連覇を達成した。疲労が溜まっているようで、ベストコンディションでない中の苦しい苦しい勝ち上がりだったが、最後は錦織本来のテニスが戻り、世界ランク15位のケビン・アンダーソン(南アフリカ)に6-4、6-4で快勝した。
錦織本来のテニス――。全豪オープンでの出来事をひとつ思い出した。
「あれは圭のテニスじゃなかったですよ」
日本からの報道関係者で沸き返った全豪オープン、中継するテレビ局は解説陣も充実させたが、その中に松岡修造さんがいたことは多くの方がご存知だろう。確か、全豪の会場に来るのも、グランドスラムに2週間通しで滞在するのもほぼ10年ぶりだと話していた。
「圭のおかげだよね~」とかつての“教え子”への心からの感謝をつぶやき、錦織ばかりでなくジュニアを含めた他の日本選手に声援を送り、時間の許す限り、外国のジュニアの試合まで“視察”する熱心さは、さすが修造氏だった。
その松岡さんがこんなことを言っていた。錦織が準々決勝でスタン・ワウリンカに敗れた翌日のことだ。
「あれは圭のテニスじゃなかったですよ」
ワウリンカ戦で錦織が見せたサーブ・アンド・ボレーのことだった。
あの試合はストレートで敗れた錦織だが、第2セットの終盤から、滅多にやらないサーブ・アンド・ボレーを頻繁に試みた。1試合に1、2度やるということはさほど珍しくはないが、このときは計12回もサービスダッシュ。そのうち11回をポイントにつなげた。錦織本人が「もっと早くやればよかったかな」と言うほどの成功率で、見ている人も多くは、錦織のテニスの引き出しの多さ、さらなる進化の可能性と、プラスにとらえたに違いない。
ところが、松岡さんはあの作戦を残念がっていたのだ。
「これまでも、不意打ち的にやることはありましたが、いつもと違って、それを続けてやっていた。自分のテニスを貫くことができなかった。たとえばジョコビッチなら、劣勢だからって、あんなことはしませんよね」
生放送の解説でも同じようなことを言ったという。ものの見方にはいろいろ角度があるものだ。ほかでもない、世界のテニスを知り、錦織を小学生の頃から知る松岡さんがそこまで力説するのだから、真意を深く考えないわけにはいかない。