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香川真司はゴールを決めずともいい!?
インサイドハーフとしての覚醒の兆し。
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byTakuya Sugiyama
posted2015/01/19 11:40
グループ最大の難敵イラクに勝利し、グループ突破に大きく前進した日本。香川真司はピッチ中央で攻守に奔走し、狭いスペースに入りこんで攻撃を加速させてみせた。
ゴールの有無、というステレオタイプを離れて。
もちろん理想を言えば、ゴールが欲しかった。
11分の本田のスルーパスに抜け出して右足を振りぬいた場面や、21分には絶好のタイミングで岡崎のポストプレーから、ペナルティエリアでパスを受けた。さらに直後には乾のラストパスからゴール前でシュートを放つも、GKにセーブされ(その後、本田のPK獲得につながった)、後半も73分にDFを一人かわして右足を強振している。しかし、どれもゴールネットを揺らすことはできなかった。
ゴールを奪うアタッカー、香川真司。
そうしたこれまでのステレオタイプな視点は、まだ彼の周囲を覆っている。だからこそ、メディアの質問もゴールの有無というところに集約され、本人もその必要性を日々語るという流れが続いている。
しかし現在の香川には、異なる視線からの評価も必要なのではないだろうか。
欧州での香川と、代表の香川は違ってもいい。
イラク戦での香川のパフォーマンスには、インサイドハーフとしての成功の兆しが見えた。
香川の純粋な技術力が、日本人選手の中でトップレベルであることに誰も異論はないだろう。
中盤中央という相手プレッシャーの強度が高いエリアで、ボールを受けてキープし、小気味良くはたき、さらに広い視野で逆サイドにまでパスを通すキックの精度も保持している。時には流れに乗った仕掛けで周囲と連係し、ゴール前にも顔を出す――。
そんな、香川が見せた可能性。その姿は、バルセロナでインサイドハーフでプレーするイニエスタの“多彩さ”に重なるところがある。
イニエスタやセスク・ファブレガスといった基本技術の高い攻撃選手は、チームの戦術によってアタッカーとしても中盤のプレーメーカーとしても振る舞うことができる。これまでの香川は、より前線で輝くことだけに注力してきたが、彼の本来のポテンシャルを考えれば、一列下がった位置でもその能力を発揮できるに違いない。
今後も欧州の舞台では、ゴールを貪欲に狙うスタイルは引き続き必要だろう。それは“外国人選手”である日本人のアタッカーが海外リーグで生き抜くために、必要なものでもある。
しかし代表では、違う表情の香川がいてもいい。そのテクニックで味方を生かし、チームを支える。背番号10の彼だからこそ、見てみたい一面でもある。