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野心よりも、自然体がよく似合う。
帰ってきた清武弘嗣の「逆襲」。 

text by

寺野典子

寺野典子Noriko Terano

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photograph byGetty Images

posted2015/01/09 16:30

野心よりも、自然体がよく似合う。帰ってきた清武弘嗣の「逆襲」。<Number Web> photograph by Getty Images

オークランドとの練習試合でアシストを決めた清武弘嗣。ブンデスリーガでも全試合に出場しており、現在最も好調な日本人選手といっても過言ではないだろう。

気負いはない。しかしネガティブでもない。

 アギーレ体制デビュー戦でのアシスト。遅れてチームに合流した清武にとっては、大きなアピールとなった。威勢の良い話を聞こうとして、清武を囲む記者の輪は大きい。

「チームとしてもクロスや速いボール回しをテーマとして挑んだ試合。クロスからアシストができたということで手ごたえも大きいのでは?」と質問する記者の気持ちが前のめりになるのも当然だ。

「イヤ、そんなには……」

「アギーレ監督のもとでの初試合。良いきっかけを掴みたいという気持ちもあったのでは?」と質問を重ねても、「イヤ。そんなのはなかったです。探り探りやっていた感じですかね」と、こちらの熱をサラリとかわす。

「試合に起用されるためにも、結果を残したいでしょ?」と食い下がっても、「そういうことは考えてないです。チームとしてもっとチャンスや得点のパターンを増やせればとは考えますけど」と一蹴される。

 しかし、清武からはネガティブなものが一切感じられない。記者の思惑を避けるのではなく、清武のなかで“日本代表”へのスタンスが変化したように思えた。

「日本代表の一員になったことに気負いみたいなものってありますか?」

「気負いですか? 気負いはゼロですね」

 躊躇することなく、きっぱりと答えた。迷いも不安も妙な重圧も感じられない。過信も悲観もなく、ただ純粋に日々サッカーを楽しむ。肩の力が抜け、眉間の皺もなく、リラックスし、フラットな状態でサッカーと向き合っているに違いない。

W杯での清武は、泣きたいのを我慢する子どものようだった。

「生き残ってやる」「追い抜いてやる」「試合に出たい」という欲や野心がモチベーションとなり、成長を促すのも事実だ。しかし、それが“雑念”となり、サッカーの楽しさを奪う結果になることも実はある。

 柿谷曜一朗や大久保嘉人の登場で、先発から遠ざかった状態で迎えたW杯ブラジル大会。

「先発ではないかもしれない」という現実を受け入れ、下を向かないよう踏ん張っていた。「チャンスが無くなったわけじゃない。チームのために」と必死で前向きな姿勢を貫こうと葛藤していた清武は、泣き出したいのを我慢する子どものようにも見えた。

 気を許せば、一気にメンタルは落ちてしまう。楽にはなれるかもしれないが、そんな自分を許せないのだろう。日本代表という立場が彼をどんどんと追いつめたのかもしれない。

【次ページ】 「W杯が近づくにつれて、重圧はすごかった」

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